○“初めて”は大切なのね?
キリゲバと戦って全員が無事。そんな奇跡とも言うべき光景に力を貰って、私は布団から身を起こす。
「それはそうと、メイドさん。私が眠っている時に何か飲ませなかった?」
私は、妙に軽い身体と少しとは言えすぐに回復したスキルポイントの種明かしを要求する。
「はい、こちらを飲んで頂きました」
そう言ってメイドさんが示したのは、不思議な色をした怪しいポーションだった。あれは、オオサカシュンが持っていた特製ポーション……よね。
「外傷だけでなく、『体力』、状態欄にある付記の除去、さらにはスキルポイントの回復まで。まさに規格外の
魔法もそうだけど、例え外来者が由来のものだとしても、有用であれば利用していくのがメイドさんの
キリゲバとの戦いの中でメイドさんが言っていた「秘密兵器」とは、このポーションのことだったのね。だったら。
「メイドさん。ポーションがあるなら、あなたのお腹の傷もきちんと治しなさい」
思い出すのは、気を失う前。メイドさんのお腹にティティエさんの矢が突き刺さっていたことだ。もう服は血で汚れていないし、メイドさんの血色は良く見える。だけど、メイドさんは変なところで意地を張ることがある。ここは命令してでも、きちんと自分の身体を
「ご配慮、痛み入ります♪ ですが、ご安心ください。お嬢様を治療するついでに、
私を治す“ついで”。一体どういうことかしら。その時ふと、私はポーションを飲まされた時に感じていた柔らかさを思い出す。
「……メイドさん。何かで私の口を覆わなかった? おかげで無理矢理ポーションを飲まされた感じになったのだけど?」
「ああ、そちらについては――」
「はいストーップ! ひぃちゃん! あれは医療行為! 人工呼吸と一緒でノーカンだって漫画でもドラマでも映画でも言ってた!」
手をぶんぶんと振るサクラさんが、メイドさんの言葉を遮る。医療行為? ノーカン? いったい何の話かしら。
「大丈夫! ひぃちゃんの初めては大事に取っとこうね!」
「本当に何の話か分からない……むぐぅ……」
手にした濡れタオルで、メイドさんが私の汚れた口元をぬぐってくれる。幸い、服はほとんど汚れていないから、これで本当に元通りね。なおも柔らかい何かについて追求しようとしたのだけど、
「それより! メイドさん。ひぃちゃんにキリゲバがどうなったのかを話さなくて良いんですか?!」
強引に、サクラさんが話題転換を図る。でも彼女の言うことももっともなのよね。今私が確認するべきは、キリゲバがどうなったのかでしょう。
「キリゲバはどうなったの?」
そんな私の問いかけに対して、メイドさんが軽く説明してくれた話によれば。
私の〈即死〉で、キリゲバはきちんと殺せたみたい。本来であれば、キリゲバは〈即死無効〉を持っている。だけど、どういうわけかそのスキルが発動しなかったみたいだった。
「どうしてかしら?」
「そちらについてはいくつか可能性があるのですが……。お嬢様、失礼ですがスキルポイントを伺っても?」
言われた私は〈ステータス〉を使って自分の状態を確認する。
名前:スカーレット
種族:魔法生物 lv.24 職業:死滅神
体力:362/450(+15) スキルポイント:37/204(+6)
筋力:65(+2) 敏捷:64(+2) 器用:109(+4)
知力:86(+3) 魔力:142(+5) 幸運:26(+1)
スキル:〈ステータス〉〈即死〉〈ナイフ術〉〈瞬歩〉〈調理〉〈掃除〉〈魅了〉〈交渉〉〈スキル適性〉〈状態耐性:病気/微小〉
キリゲバと戦ってレベルが1上がってるわね。他にもスキルが2つ増えていたり、幸運が1上がっていたりするけれど、今は聞かれたことにだけ答えましょう。
「スキルポイントは……レベルが上がる前だと198だったんじゃないかしら」
「ふむ、なるほど。キリゲバと戦う以前にスキルポイントは減っていましたか?」
私が首を振ると、メイドさんは持論を語ってくれた。曰く、私の〈即死〉が〈即死無効〉を上回ったのではないかとのこと。
「さすがにレベル198の生物など存在しないでしょう。しかし、お嬢様は〈即死〉を使用した直後にスキルポイントが0になりました」
私の〈即死〉は相手のレベル分だけスキルポイントを消費して効果が表れる。そのことを確認しながら、メイドさんは解説を続ける。
「となると、キリゲバが持っていた〈即死無効〉が関係していると見るべきです。……そうですね。〈即死〉に対して〈即死無効〉が発動した。しかし、〈即死〉はなおもキリゲバを殺そうとする」
そんなやり取りが刹那の間に数回にわたって行なわれた。
「結果、キリゲバのスキルポイントが不足して、お嬢様の〈即死〉が発動した。そして、お嬢様もスキルポイントが切れて気を失った……と考えてはどうでしょうか?」
あくまでもこれはメイドさんの推測でしかない。だけど、もしそうだとするなら、みんながキリゲバに〈飛行〉や〈瞬歩〉もどき、空中を歩くよく分からないスキル……。たくさんスキルを使わせたことが、要因と考えるべきでしょう。
何よりも、キリゲバが空に逃げられなくなったのが大きかった。さすがの機転だとサクラさんを褒めると、
「ポトトちゃんが羽を広げて教えてくれたから、わたしも役に立てたんだ~! ね、ポトトちゃん?」
『クルッ?』
サクラさんとポトトの間で、そんなやり取りがあった。サクラさんの話では、ポトトが鳴いて羽を広げる仕草を見せたらしい。それによってティティエさんと赤竜との戦いを思い出したからこそ、矢をティティエさんに渡すという作戦を思いついたようだった。反応を見るに、ポトトにその意思があったのかは正直、微妙そうだけどね。
誰一人欠けても、生き残ることはできなかった。全員が逃げずに戦った。だからこそ奇跡が起きたと思ってしまうのは、私の考えすぎかしら。少なくとも、最恐最悪の状況を前に、勇敢に立ち向かってくれる人々がそばにいてくれる。サクラさんの言う通り、本当に、私は“出会いの運”が良いのね。
「ふふっ! みんな、本当にありがとう!」
「出た、ひぃちゃんの急な感謝!」
私の感謝の言葉に、4人とも苦笑いだった。さて、こうして無事を確認し合った後にやってくるのは、私の大好きなあの時間ね。
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