○その勘違い、利用させてもらうわ
焦らず、あくまでも丁寧に。ゆっくりと読書作業を進めること、5日目。12月の13日目の夜。場所は、1階から吹き抜けになっている2階の通路。いつもはここで私とメイドさんとポトト、サクラさんとアイリスさんに分かれるのだけど、
「私、今日からアイリスさんと寝ることにするわ」
お風呂を済ませて寝間着に着替えた私は枕を抱いて、決然とした顔で目の前に居るメイドさんに言った。発端は、少し前。サクラさんから聞いたチキュウの行事に起因する。そして、かねてから私が出来なかったことをするためには、どうしてもメイドさんと離れる必要があった。
「……何か粗相があったでしょうか? それとも世に聞く反抗期でも来ましたか?」
特段驚く様子もなく。まさに理解できないと言った態度でメイドさんが首をかしげる。さらりと肩からこぼれる白金色の髪は今日も綺麗ね。
そうして不思議そうにするメイドさんに、私は首を振る。
「いいえ。だけど、しばらくメイドさんと一緒に寝るのは嫌なの。サクラさんと寝室を交代してもらうわ」
「……? 夜、お嬢様がお布団の中で何やらしている事と関係があるのでしょうか?」
「うそっ?! 気づいてたの?!」
まだ準備しかしていなかったのに、バレていたの?! これだと作戦が……。いいえ、まだよ。
「ど、どこまで見たの?」
「いいえ、さすがに見ることは致しません。お嬢様もお年頃。そう言うこともあるのかなと。ですが、
「そ、そう……」
良かった、あらぬ勘違いをしてくれているみたい。私個人としては無視してはいけない気もするけれど、今は我慢。協力してくれているサクラさん、アイリスさんのためにも、メイドさんの勘違いを利用しましょう。
「時間をかけて開発をした甲斐があるというものです♪」
というメイドさんの呟きも無視よ、無視。……ん? 開発って、まさかいつものマッサージのことじゃないわよね。これといって怪しい動きは無かったと思うけれど……って、今は無視するんだったわ。
“お手伝”しましょうか、などと聞いてくるメイドさんの提案に首を振って、
「おほん。いい? とにかく、私とアイリスさんが一緒に寝るの。……絶対に、絶対に! 私たちの部屋を覗かないで」
「まさか従者たる
笑顔で腰を折ったメイドさんと別れて、私はサクラさんとアイリスさんが待つもう1つの部屋へ向かう。こういう時だけ私を主人扱いするメイドさんにモヤモヤしつつ、私は扉を開いた。
魔石灯が照らす部屋には2つのベッドとサイドテーブル、衣装棚。私とメイドさんが居た部屋と間取りは全く同じ。部屋の大きさは、2人で使うにはちょうどいい大きさだと思うわ。ベッドの1つにはサクラさんとアイリスさんが腰かけていて、
「お帰り、ひぃちゃん。どう? 上手くごまかせた?」
サクラさんが身を乗り出して聞いてくる。
「ええ、大丈夫だと思うわ。大切な何かを失った気もするけれど。それより、アイリスさん。こんな感じで動かしら」
私が胸ポケットから取り出したのは毛糸で編んだ四角くて白い、小さな布。昨日、練習用に編んだハンカチもどきだった。早速メイドさんにバレそうになったみたいだけど。
「さすがにホムンクルスなだけあって器用ですね。これで大丈夫です。あとはこれを大きく長くしていけば」
「ストールの完成だね!」
そう、私は今、チキュウにあるクリスマスに
肝心の作戦内容はサクラさんがメイドさんの動きを監視。そして、私がストールを完成させるという単純なもの。これでも器用さと魔力には定評のあるホムンクルスの私だから、コツコツやれば24日までには間に合うはず。
「言うことやることは不器っちょだけど手先は器用だもんね、ひぃちゃん」
「……それ、褒めてくれているのよね、サクラさん?」
「もちろん! よっ、ひぃちゃん! すごい子、できる子、頑張る子!」
口元に手を添えながら言って、私をあからさまにおだてるサクラさん。まったく、調子がいいんだから。……嫌な気はしないけれど。素材となる毛糸は、物置にもなっている屋根裏部屋の衣装棚にあった物を利用する。きっとメイドさんの趣味のものね。基本的に用も無ければ屋根裏部屋に行くことは無いし、バレることも無いはず。黒と白の毛糸が多かったから、白いものを使うことにした。
ストールを選んだのは、基本的にメイド服しかメイドさんが着ないから。手袋もありかなと思ったけれど、手袋含めて着る服全てにメイドさんはこだわりがあるように見える。だったら、服の上から羽織ることが出来るものを、ということだった。
「それじゃ、わたしはメイドさんとポトトちゃんが居る部屋に移るね。サプライズ、上手く行くと良いね、ひぃちゃん」
「ありがとう、サクラさん。無茶言ってごめんなさい。だけど、よろしく頼むわ」
ピンク色の寝間着に茶色い髪を揺らして部屋を出て行くサクラさんを見送って、部屋には私とドレス風の寝間着を身にまとうアイリスさんの2人きり。
「それじゃあ早速、ストールを作って行きましょう!」
「そうね。何か不手際があったら遠慮なく言ってくれるとありがたいわ。日頃の感謝を込めて、メイドさんには納得いくものを渡したいから」
驚いてくれるかしら。喜んでくれるかしら。期待と不安を胸の奥にしまい込んで。こうして書斎で手がかりを探す
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