対決、ブレイクシア城10
床に刺さったムチャの剣が咆哮した。
それは空気を震わし、大地を揺るがす程の轟音であった。周囲にはトロンが起こしたものとは比べものにならない程の暴風が吹き荒れる。そして剣からは目がくらむ程の金色の光が溢れ出した。
ムチャとトロンは飛ばされぬように互いに手を繋いで踏ん張った。飛んでくる破片を防ぐために、トロンは障壁を張る。
「貴様ら……何をした?」
巨大化したブレイクシアでさえ、あまりの暴風により、立っているのが精一杯だ。
「何をしたと聞いている!」
ブレイクシアが叫んだ瞬間、ムチャの剣から一閃の光が放たれる。光は集い、竜の首となり、凄まじい速さでブレイクシアへと直進すると、ブレイクシアの右半身を貫き、消し飛ばした。
「バ……カ……な……」
半身の消滅したブレイクシアは地響きを立て倒れた。それを見て、ムチャとトロンは目を丸くした。
ムチャがケンセイから剣を受け継いだその日、ケンセイはムチャに剣の秘密を打ち明けた。
「いいから受け取れ、俺にはもう必要無いものだ
。それに、その剣は特別なんだ。なぜなら……」
「なぜなら?」
「この剣には始まりの竜が封じられているんだ」
「始まりの竜?」
「神様がこの世界に光を灯すために生み出した竜さ」
「それって凄いの?」
「そりゃあ凄いさ。竜っていうよりは暴れるお日様だな。お前が芸人として世界を照らす事ができるように、御守りに持っておけ」
ムチャは手にした剣を不安げな顔で見つめた。
「この剣、本当に俺が持ってて大丈夫なの?」
宝石から長い首だけを出した竜は、咆哮しながら室内を所狭しと暴れまわる。壁にぶつかれば穴を開け、その牙を振るえば柱を砕いた。
「あわわわわわ……」
「やっちゃったね……」
ムチャとトロンはその暴れっぷりにただ震えていた。竜の頭が天井にぶつかり、二人に瓦礫の破片が降り注ぐ。トロンの張った障壁がビリビリと振るえた。このままでは、二人は竜に食い殺されるか、瓦礫に潰されて死ぬかのどちらかである。
竜は封印されていた宝石から全身を引き摺り出そうと、今まで以上に激しく暴れ出した。
「トロン、今ならまだ間に合う。やるぞ!」
ムチャはトロンの目を見て言った。トロンはムチャの目を見て頷く。
「うん。でも失敗しても恨まないでね」
縁起でもないことを言うと、トロンは静かに目を閉じ、手にした杖の先端を剣の柄に当てて魔力を込めた。
「我が身に宿る四つの感情よ」
トロンの体から真っ白なオーラが立ち上る。
「はち切れる程の喜び。身を震わす怒り。深く沈む哀れみ。包み込むような安楽。汝らをもって一つの結界となさん」
トロンからドーム状の魔力が広がり、それはみるみるうちに大きくなって、部屋全体に広がった。
「荒れ狂う竜よ、在るべき場所へ帰れ……四感封印!」
トロンが目を見開くと、ムチャの剣に埋め込まれた宝石が、魔力のドーム内にあるあらゆるものを驚きの吸引力で吸い込み始めた。竜の首も引き摺られるように宝石の中へズルズルと引き寄せられてゆく。竜はそれを嫌がるようにのたうち回る。竜とトロンの間で盛大な綱引きが始まった。
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