古城にて
「ブレイクシア様、城より二十キロ程東に人間共の軍が集結しつつあります」
ブレイクシア軍の参謀である女魔道士のキーラが、王座に座るブレイクシアに報告をした。彼女の額にもまた、鬼族の証である角が生えていた。
「ふん。人間共め、先手を打ちおるか」
「奴らの軍勢は約三万。こちらは数で劣りますが、鬼族の精鋭を始め、武闘派の魔物が揃っております故に敗北はあり得ぬかと」
「こちらも軍を出しておけ。……しかしなぁ」
ブレイクシアはつまらなそうな顔をした。
「軍同士の戦など、種族として優れている我等が勝利するのは当然だ。女神の気まぐれで繁栄しただけの無能共に負けるはずあるまい」
「おっしゃる通りです」
「大事なのは奴らの中に勇者がいるかどうかという事だ。俺の血を滾らせるような勇者がな」
ブレイクシアはグラスに注がれた赤い液体を飲んだ。そしてゴブッとむせた。
「ブレイクシア様、無理して嫌いなトマトジュースを飲む事は無いかと……」
「ふん、新生魔王軍の一角を担うこの俺に好き嫌いなどあってなるものか、必ずや克服して……ゴブッ」
再びグラスに口をつけたブレイクシアはまたしてもむせた。
「ブ……ブレイクシア様」
「何も言うなキーラよ」
ブレイクシアは荒々しく口元を拭った。
「ふん。人間の軍などよりこやつの方がよっぽど手強いな」
その時、キーラの元に鬼族の兵士が駆け寄って来て耳打ちをした。
「ブレイクシア様、何者かがこの城に向かって来ているそうです」
「ふむ、人間共の斥候か?」
「いえ、それにしては数が少なすぎます」
「幾つだ?」
「人影は二つ。荒野を真っ直ぐに城に向かって歩いて来ます」
「たった二つだと?……ふむ」
ブレイクシアが腕を振ると、離れた台座に乗っていた水晶玉がブレイクシアの元に飛んでくる。その水晶玉にブレイクシアが魔力を込めると、城の外の情景が水晶玉に映った。
「くくく……ははは! まさか本当に来るとはな! そうでなくては面白く無い!」
水晶玉に映った光景を見てブレイクシアは笑った。
「キーラよ、軍を出すのは少し待て、まずは余興があるようだ」
そう言ってブレイクシアは立ち上がった。
「芸人が来たぞ」
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