幕間

 ムチャ達がクフーク村を出発して数時間が過ぎた頃、魔王軍の残党(新生魔王軍)が集結しているというロイヒ荒野の二十キロ東では、ムイーサ地方の要塞から出撃した、魔王軍討伐の為の軍隊がキャンプを張っていた。そのキャンプの中心では、軍の将軍や参謀達が額を突き合わせて作戦会議を進めていた。

「魔王軍が集結している古城は周りは全て平地であるために奇襲には向きませんね」

「うーむ……向こうにフライングデビルなどの制空権を取れる魔物が多数いた場合は厄介だな……」

「相手の将は鬼族だとの目撃証言があるため、鬼族が主力だと考えられます。となると、フライングデビルだけでなくワイバーンライダーやガーゴイルなども多数いると考えて間違い無いでしょうね」

「こちらも王国軍のワイバーンライダーを出したい所だが、奴らは本当に虎の子だからなぁ……弓兵や銃兵を増員してなんとかするしか無いな」

「傭兵達も続々と集まっている事ですし、傭兵達を前線に置いて王国軍の兵士は極力後ろに下げ弓兵としましょう」

「しかしそれだと前線の士気が保てるか不安だな」

「先の戦乱で活躍した猛者達が生きていれば良かったのですが……」

「それを言うな。生き延びた者と新たな兵達でなんとかするしかあるまい」

 将軍達の会議は夜を徹して行われていた。


 一方、ムチャとトロン御一行はというと。

「選択肢は二つだ……さぁ、どうする?」

「むむむ……」

 やはり彼らも真剣な顔をして、馬車の荷台で額を突き合わせていた。

「私は……こっちだと思うな」

 ニパは真剣な目をして言った。

「果たして本当にそうだろうか?」

 ムチャの額にはじんわりと汗が浮かんでいる。

 しばらくの沈黙の後、ニパは決断を下した。

「やっぱりこっち!」

 ニパがムチャの握るカードを一枚手に取る。

「やったー! あがりー!」

「まじかよー!」

 見事トランプのペアを揃えたニパは、嬉しそうにガッツポーズをした。

 ムチャとトロンとニパは真剣に額を突き合わせてババ抜きをしていたのだ。

「ムチャ8連敗。ほら、しっぺしっぺ」

 ムチャの腕にトロンがバチンとしっぺをする。続いてニパがムチャの腕を掴み、二本の指を高らかに振り上げた。

「ニパ……ニパ……手加減を……」

「問答無用! せやぁ!」

 ニパは幼い少女の容姿に潜む、獣人の怪力とバネを活かし渾身のしっぺを繰り出した。


 っぱーーーん


 まるで短銃が発射されたような快音が響き渡り、ムチャは悶絶して馬車の荷台を転がった。

「いひぃぃぃぃぃい」

「凄いしっぺだね。ゴブリンくらいなら倒せそう」

 トロンは自分が喰らわなくて良かったと心から思った。そしてとうとう皮が剥けたムチャの腕に治癒魔法をかける。

「ニパは用心棒にもなるからね、今更ながら悪い買い物じゃなかったのかも。ていうか、それ私の小道具のトランプじゃないの? 使わないでよね」

 プレグが馬車の御者台から言った。

「あとどれくらいで着くの?」

「そうね、早ければあと半日、長く見積もっても一日あれば城が見えると思うわ」

 一行を乗せた馬車はわりとのんびり街道を西へ進んでいた。一方すれ違う馬車は皆一様に足早だった。

「最近魔物に襲われる事が増えていたけど、新生魔王とやらのせいで活発になっているのかしらね」

「多分な、魔物達もテンション上がってるんだろ」

「その割にはこの辺に魔物は見当たらないわね」

「その城とやらに集まってるんだろ」

「よくそんな所に行こうと思いますこと……」

 プレグはため息をついた。

「ムチャさん、もう一回やろう!」

 ニパがシャッフルしたトランプを意気揚々と差し出す。


 馬車の中は平和であった。あと数時間は。

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