少し前

 その少し前、ムチャとトロン一行は、相変わらず作戦会議を続ける王国軍を追い抜き、古城が見える小高い丘までやって来ていた。

「私達が行けるのはここまでよ」

 プレグは手綱を引き馬車を止める。

「おう、ありがとうな」

 ムチャとトロンは馬車の荷台から降りて、プレグに礼を言った。

「本当に行くの?」

 プレグの顔には心配そうな表情が浮かんでいた。

「おう。ま、何とかなるだろ」

 ムチャは事も無げに言った。

「トロンも?」

「うん」

 トロンはそれだけ言うとコクリと頷いた。

 それを見たプレグは御者台から降り、ムチャの顔を見つめる。

「トロンに何かあったら許さないからね」

「わかってるよ」

「わかって無いからこんな所まで来たんでしょう」

 プレグの目は僅かに潤んでいた。

「大丈夫かプレグ?」

 その様子を見たムチャの方が心配になってしまった。

「何でも無いから」

 プレグはプイとそっぽを向くと、再び御者台に乗り込んだ。

「じゃあ、またどこかでな」

 ムチャが手を振ると、さっきまで無邪気にはしゃいでいたニパも、どこか不安げな表情になった。

「気をつけてね」

 ムチャとトロンはニパに頷くと、馬車に背を向けて、城に向かって歩いて行く。

 プレグはそんな二人の背中を見送った。

「ねぇ、本当に二人だけで行かせて良かったの?」

 ニパが馬車の荷台からプレグに声をかけた。

「あんなバカ二人、勝手にすればいいのよ」

 そう言いながらも、やはり見送るプレグの目は悲しげだった。

「あのさ、プレグってトロンさんが好きなの? 女として」

「あんたねぇ、次そんなバカな事言ったら尻尾引っこ抜くわよ」

 プレグはギロリとニパを睨む。

「だってプレグってばトロントロン〜って言ってるよね」

「あんたは知らないかもしれないけど、あの子はヤバいくらいの魔力と魔法の才能を持ってるのよ。ほぼ全ての属性を満遍なく使いこなして、しかも感神教の感情魔法までハイレベルで使える。あの子の魔力と私の技術が合わされば世界一のショーができるようになるわ」

 プレグは嵐のような拍手を浴びるのをイメージしてうっとりした。

「プレグって野心家なんだね。だからトロンが欲しいんだ」

「芸に関してはね。せっかく人が娯楽を満喫できる時代が来たんだもの。あれだけの魔力がありながら何で魔法に一切関係ないお笑いなんてやってるのか訳がわからないわよ」

「でも、あの二人面白いよ」

「つまらないわよ」

「プレグはあの二人の漫才見たことあるの?」

「何回も見たわ」

「笑わなかった?」


「……一回だけ笑ったわ。一回だけね」

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