知られざる英雄達の凱旋

 古城での激闘から数日後、ムチャとトロン一行はクフーク村へと戻ってきた。村の門から入ってきたプレグの馬車を見た村人は、手にしていた桶を取り落とし、叫んだ。

「帰って来たぞー!!」

 その声を聞いて、村人達は一斉に窓から顔を出した。そして転がるように表に出ると、馬車に乗る四人に大きな拍手を送った。

「ムチャ君! トロンちゃん!」

 馬車を降りたムチャとトロンのもとに、ペノが駆け寄ってくる。そして二人を抱きしめた。

「生きていたのね! よかった……」

 涙目のペノを見て、二人はニコリと笑った。

 そこに、ずんずんと足音を立ててミノさんが歩み寄る。そしてムチャにビンタをかました。

「へぶっ!」

 ムチャはミノさんの怪力ビンタを喰らい、数メートルも転がる。ミノさんは怒鳴った。

「馬鹿野郎! 無茶しやがって……ムチャだけに」

 そして転がったムチャを引き起こし、ぎゅーっと抱きしめた。あまりのハグパワーに、ムチャの背骨が悲鳴をあげる。

「いたたたたた!! ミノさん! 死ぬ……死ぬ!!」

 ムチャの顔が青ざめた頃、ミノさんはようやくハグを解いた。

「よく生きていたのもんだな」

「今死ぬかと思ったよ……ミノさんこそ、生きてたんだな!」

「当たり前よ! ミノタウルスなめるなよ!」

 そう言ってミノさんは力こぶを作った。

 二人は再びミノさんに抱きついた。

「あのブレイクシアって奴を倒したのはやっぱりお前さん達の仕業なのか?」

 魔物達が集まっていた古城が倒壊して、魔王軍が消えていたという情報は、ムチャ達が村へ戻って来る前にはすでにクフーク村まで届いていた。

「まぁ、結果的にはそうなるかな」

「ショートコントのオチが強すぎて、みんな逃げちゃったんだよね」

 二人は首だけでブレイクシアを粉砕したエンシェントホーリーフレイムドラゴンを思い出し、ブルルと背中を震わせた。

「じゃあ、あの新聞に載っていたのはいったい誰なんだ……?」

 今朝ミノさんが読んだ新聞には、親指を立てたナッポという男が、デカデカと載っていたのである。

「あぁ、多分それは英雄だよ」

「そうそう、英雄英雄」

 それを聞いて、ミノさん含む村人たちは首を傾げた。


 それから二人はミノさんの肩に乗せられ、食堂へと向かった。食堂へ向かう途中も、道行く人々や窓から顔を出した人々から沢山の拍手が四人に浴びせられる。それはまるで凱旋パレードのようであった。

「なんか私達があいつらのお付きみたいじゃないの」

「まぁまぁ、実際活躍はそんなものだったしね」

 後ろからついて行くプレグは頬を膨らませ、ニパがそれをなだめる。

 そして、食堂に着いたムチャとトロンは、ペノが作ったジャンボハンバーグを、二人で八キロも食べた。それはブレイクシア戦と、エンシェントホーリー……例の竜の封印で体力と魔力を大量に消費したので、それを補填する意味でも仕方ないのだが、あまりの食べっぷりに村人達は目を丸くした。ちなみにプレグはジャンボハンバーグを半分残し、ニパは超レアステーキを二枚とプレグの残したハンバーグを食べた。

「もしかしてあの二人、べタル村の大食い大会で優勝した二人じゃ……」

「あれか! べタル村からホットドッグ消滅って記事」

 どうやら二人の蛮勇を知っている者もいるようだ。

「今日はお祝いだから、ムチャ君達は全部タダで食べ放題よ!」

 厨房から顔を出し、ペノが言った。

「あの……ペノ君、勝手にそういう事されると……」

 食堂の店長がおずおずと言うと、ペノは店長を睨みつける。

「息子さんがトカゲに食べられそうになった所を助けられたのはどこの誰でしたっけー?」

「そ、それは……」

 店長は考えて、やがてクワッと目を見開いた。

「馬鹿野郎! 食べ放題だけじゃなくて飲み放題もだ! 英雄四人だけじゃなくて全員な! 今日はお祝いだ!」

「よっ! さすが店長! 細い毛根と太っ腹!」

「おい! そこのお前、酒場の店員だろ? 店長のボンバに言ってありったけの酒を持って来い!」

 それからは酒池肉林の宴が始まった。


「ブモ、いやー、相変わらず面白いな! ところで、お前ら酒は飲めるのか?」

 宴が多いに盛り上がる中、漫才で場を沸かせてテーブルに戻って来た二人にミノさんが聞いた。

「酒かぁ……そう言えばあんまり飲んだ事無いな」

「うん。保存がきく葡萄酒くらいだよね」

 ムチャとトロンは基本的に貧乏生活をしているため、酒などの嗜好品とはあまり縁のない生活を送っていた。それにこの二人は、飲むより食う方が好きなのである。酒を頼むくらいなら、水を飲んでもう一品料理を頼みたいタイプなのだ。

「ブモ! それならいい機会だ、せっかくだから好きなだけ飲んでみたら良い。この村の酒は美味いぞー」

 そう言ってミノさんは厨房から勝手に酒を持って来ると、二人のグラスに注いだ。

 まず一杯目。グラスはしゅわしゅわした薄黄色の液体で満たされている。

「これは麦の酒だ」

「しゅわしゅわしてるな」

「しゅわしゅわしてるね」

 二人はそれをちびっとのんだ。

「苦い! でも喉越しがいいな。暑い日にぐびぐび飲みたい」

「苦い……」

 二人がしゅわしゅわした麦の酒を飲み干すと、ミノさんはまた新しい酒を持って来て、小さなグラスに注いだ。今度は先ほどと違い透明の酒である。

「これは米の酒だ」

「なんか強そうだな」

「甘い匂いがする」

 二人は小さなグラスを口に運ぶ。

「うーん……なんだか甘ったるいな」

「私はこれ好き。焼き魚を食べながら飲みたい」

 二人は米の酒をグビリと飲み干す。するとミノさんは既に三杯目を用意していた。

「これはリュウゼツランという植物から作られた酒だ」

「リュウゼツラン? 初めて聞いたな」

「ツイーア地方の植物だからな。この辺では珍しい。まぁ、飲んでみろ。これはグイッと一気に飲むのがマナーだ」

 二人は小さなグラスから、その酒をグイッと飲み干した。すると二人の顔がみるみるうちに赤くなる。

「ミ、ミノさん……これ強すぎない?」

「む、そうか? 俺は好きなんだが」

「このお酒の名前は? ヒック」

 トロンは顔を真っ赤にしてしゃっくりをした。

「確かこの酒の名前は……」

 ミノさんは瓶のラベルを見た。


「そうそう。テキーラだ!」


 ※テキーラ……アルコール度数40%

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