酔いどれし馬鹿者達

「一発ギャグやりまーす!」

 宴が始まって数時間、食堂全体がすっかり酒気に染まった頃、ニパがホールに設けられた特設ステージに元気よく躍り出た。

「一発ギャグ、犬」

 ニパは半獣に変身すると「アオ〜ン」と犬のように遠吠えをしてみせた。それを見た酔っ払い供は、やんややんやと囃し立てる。

「続きまして、モノマネ、プレグ」

 ニパは腰をくねくねしながら「プレグよ〜ん」と言うと、お色気120パーセント(当社比)のセクシーポーズをとってみせた。食堂内には爆笑が広がる。

 よく見るとニパの顔はほんのりと赤く染まっている。そしてそれは恥ずかしさや興奮のせいではない。御手洗いから戻ってきたプレグは、ステージの上でくねくねと珍妙なポーズをとっている愛弟子を見て、手を拭いていたハンカチを取り落とした。そしてニパにツカツカと歩み寄ると、ニパの耳をつまみステージから引き摺り下ろす。

「ちょっと誰よ!? ニパにお酒飲ませたの!?」

 保護者兼、雇い主のプレグははすっかり酩酊している観客達に激怒した。すると。

「おー! ねーちゃん脱げ脱げ!」

 と、プレグに向かって酔っ払い達から品の無いヤジが飛ぶ。

「脱がないわよ!」

 一言怒鳴ると、プレグはニパを連れてテーブルに戻った。ちなみにプレグは、世話焼きな性格のために他人が酔っているといくら飲んでも酔えないのだ。

「ねぇ〜、プレグ〜、遊ぼうよ〜」

 テーブルに戻ってからもニパがうるさいので、耳の後ろを指でカリカリとしてやると、ニパはプレグの膝にコテンと頭を乗せ、大人しくなった。

「まったく……盛り上がるのにも限度ってもんがあるわよ」

 プレグがワインをちびちび飲みながら食堂内を見渡すと、そこはまさしくカオスの園であった。

 あるテーブルではミノさんが腕相撲で二十人抜きしており、また別のテーブルではムチャが泣きながらお笑いについて力説していた。そして更に別のテーブルでは……


 こっくり……こっくり……


 トロンが頭をふらふらさせながら、うとうとしていた。

「ちょっと、あんた寝るならちゃんと宿に戻りなさいよ」

 プレグが声をかけると、トロンはポーッとした目でプレグを見た。どうやら眠気のせいだけではなく酔いも回っているようだ。そんなトロンを見て、プレグはふと思いついた。ニパを放置してそそくさとトロンの隣に座る。そして耳元で囁いた。

「……お姉ちゃんだよー」

「お姉……ちゃん?」

 プレグの背中にゾクゾクとしたものが走る。

「よ、よしよし」

 プレグはトロンの頭をよしよしと撫でた。いつもなら手を払いのけられてしまうだろうが、今日のトロンは大人しく頭を撫でられていた。

「ほら、もう一度お姉ちゃんって呼んでご覧」

 プレグが言うと、トロンは意識朦朧と口を動かす。

「おね……おね……」

「そう。お、ね、え、ちゃ、ん」

「おね…………」

 そして。


「おねむ」


 そう言って、テーブルにゴチンと頭突きをしてそのまま寝てしまった。プレグは唖然とすると、トロンを背負って渋々と宿屋まで運ぶのであった。

 宴が解散したのは深夜であった。

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