仮初めの英雄

「土煙が上がったから何事かと思えば……」

 ようやく古城へと到着した王国軍の将軍ドルフーは、崩れ落ちた城を見て唖然とした。後ろに続く兵士達もざわざわと騒ぎ出す。

「オリンよ、敵軍は一体どこへ行ったのだ?」

 王国軍軍師のオリンも首を傾げた。崩れ落ちた城からは魔物一匹の気配すら感じられない。

「わかりません。しかし、ここで戦闘があったのは間違い無いようです」

「そんな事はこの崩れた城を見ればわかるわい。しかし……いったい誰が……」

 ドルフーが辺りを見渡すと、城門の前に立っている一人の男を見つけた。ドルフーとオリンはその男に近づく。男の顔はやけに二枚目であったが、どこかヌボーっとしていた。

「おい、お主、ここで何があった?」

 ドルフーが聞くと、男は言った。

「魔王軍の将、ブレイクシア討ち取ったりー!」

『何だと!?』

 ドルフーとオリンは顔を見合わせた。

 すると軍師オリンはある事に気付いた。

「君、その剣に付いている印は!?」

 オリンはその男の剣に付いた印を良く見た。

「これは心神教の……まさか君はあの剣聖、いや、年齢から考えると剣聖の後継者か?」

「俺は英雄だー!」

 その男、ナップはバカみたいに両手を天に突き上げた。

 ナップの言葉を聞いた前列の兵士達から、話は次々と後列の兵士達へと伝わる。

 兵士達のざわめきは、やがて歓声へと変わった。

「お主、名前はなんという?」


「俺は英雄ナッポだ!!!!」


 ナップ、いや、ナッポはドルフーに親指を立ててウインクをした。

 ナッポ!

 ナッポ!

 ナッポ!

 そして、ナッポコールが始まった。それは前列から徐々に広がり、やがて約三万のナッポコールとなった。それは百キロ離れたクフーク村まで聞こえたとか聞こえなかったとか……

 こうして、数日後のムイーサ地方の新聞に、ナッポという存在しない名前の英雄の名がデカデカと載る事になったのである。



 その頃、とある場所に、六つの怪しい影が集まっていた。

「『傲慢』がやられたか」

「しかし奴は我ら七人の中でも最弱……」

「いやいや、そう言いたいのはわかるけど、武力では彼が最強だと思うけどねぇ。鬼族のサラブレッドだし。おいおい『憤怒』そんなに睨むなよ。あんたも十分強いさ」

「彼はまだ子供だった、故にあの方の意思をイマイチ理解していなかったです」

「まぁ、あれはあれで正解なんじゃ無いの? あの爺さんは好きにやれって言ってたんだから」

「でも、武力での人間の制圧は厳しいって先代魔王の件でわかっていた筈なのにね」

「そこは所詮単純な鬼族の事よ。期待したのが馬鹿だった」

 すると、一つの影が前に進み出た。

「ほう、次は貴様が行くと言うのか」

「……」

「良いだろう。我々もぼちぼち行動を起こすとするか」

 そして、六つの影はすうっとその場から消えた。

 果たして、彼等はいったい何者なのであろうか?

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