本日定休
ムチャとトロンはネタについて話しながら宿へと戻ってきた。そこで二人は夕飯を食べていなかった事にふと気付く。先程ミモルの病室で菓子を食べたが、食べ盛りの二人の夕飯が菓子だけで足りるはずもなく、二人のお腹が仲良く鳴った。
「食堂開いてるよね?」
「まだ大丈夫だろ。行こうぜ」
二人は部屋に荷物を置き、一階へ下りると、食堂へと続く扉を開けた。すると。
「あれ?」
いつもこの時間は夕飯を食べる人々で賑わっている筈の食堂が今日は人っ子一人おらずガランとしている。客どころか、いつも忙しそうに食堂を駆け回っている給仕の女の子すらもいない。
「おかしいなぁ……おばちゃーん!!」
ムチャが厨房に向かって声をかけるが返事はない。二人が戸惑っていると、ムチャの声を聞いたプレグとニパが食堂に現れた。そしてニパが言う。
「今日は食堂休みだよ」
「え? どうして?」
「あんた達は朝ごはん食べずに出て行ったから知らないでしょうけど、今日は食堂のおばさんが風邪ひいちゃったらしくて、食堂休みになったのよ」
それを聞いてムチャとトロンは天を仰いだ。
「えー! まじかよ!」
「お腹空いてるのに……」
二人は今日、食堂のおばちゃんが作るミートスパゲティが食べたいと思っていて、口もお腹もすっかりミートスパゲティモードだったのだ。
「私達はこれから外に食べに行くけど、あんた達も来る?」
「一緒に行こうよ!」
ムチャとトロンがプレグ達の提案に乗ろうとした時、食堂の扉が開き、宿のオーナーで、食堂のおばさんの旦那でもある受付のおじさんが顔を出した。
「あー、ごめんなさいね、今日は食堂休みなの」
「うん、今聞いたよ。おばちゃん風邪ひいたんだってな」
「そうそう、ほんとごめんね。おかげで今日辺り期限切れの食材とか無駄になっちゃうなぁ……」
おじさんは困った表情を浮かべた。
「えー! もしかして、食材捨てちゃうの?」
「うーん。まぁ、仕方ないよ。従業員だけじゃ食べきれないし、保存の効かない物もあるからね」
「勿体無いなぁ……」
ニパは指を咥えて眉をひそめる。すると、プレグが前に進み出て言った。
「なんだったら私が食材を冷凍しときましょうか?」
「冷凍?」
「カチカチに凍らせれば数日は持つと思いますよ」
「そんな事できるのかい?」
「えぇ、氷結魔法が使えますので」
プレグがおじさんに差し出した掌から、ひんやりとした冷気が溢れる。
「それは助かるよ! 是非お願いできるかな」
おじさんはそう言って、四人を厨房へ案内した。
「これが今日使う予定だった食材だよ」
厨房の奥にある食料庫には、生肉や生魚などあまり日持ちしなそうな品々がずらりと並んでいる。
「じゃあ、凍らせますよ」
プレグが食料に手を伸ばすと、おじさんは思い出したように言った。
「そういえば君達、夕飯はどこかで食べてきたのかい?」
「いや、今から食べに行くところ」
「それならさ、この中で好きな食材を使って何か作るといいよ。道具は揃ってるし、余った食材を冷凍しておいてくれたらいいからさ」
「え? えーと……どうしようかしら……」
「まぁまぁ、どうせほとんどダメになる筈だった食材だし、君達の好きにしてくれ。じゃあ、冷凍の方頼んだよ」
おじさんはそう言って厨房を出て行く。
プレグは三人の顔を見渡した。
「あんたらどうする?」
「どうするトロン?」
「どうするニパ?」
「どうするプレグ?」
「どうするム……キリがないわよ!」
するとムチャがこんな事を言い出した。
「でも作るの俺達だろ? プレグ達が後片付けしてくれるならやるよ」
「何で作るのはあんた達なのよ?」
「だってプレグ達、料理できないだろ?」
「はぁ? 失礼ね! できるわよ!」
「私もできるよ!」
プレグとニパが抗議の声を上げる。
「あんた達こそ料理できないでしょ? 後片付けはあんたらがしなさい」
「いやいや、できるっつーの!」
「ほんとかしら? 私は変なもの食べたくないわよ」
「こっちのセリフだよ!」
ムチャとプレグの間に火花が散る。そこでムチャは一つの提案をした。
「じゃあ、こんなのはどうだ? 四人で一皿ずつ料理を作って、一番不味い料理を作った奴が後片付け!」
「面白そうじゃないの。やってやるわよ」
「えー……みんなで作ってみんなで後片付けすればいいじゃん」
「何? ニパ、あんた自信ないの?」
「そういうわけじゃないけど……」
「トロンもいいよな?」
「うーん……いいよ」
「よーし! じゃあ決まりだ!」
ムチャはぐいっと腕まくりをする。
こうして、四人の料理対決が始まった。
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