回想6

 ヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバい………だけどやる!!!!


「ひゃっほーい!!」


 ムチャは全裸で会場を駆けだした。

 会場は騒然となる。

「何だあれは!?」

「儀式の一環か?」

「パパーあの人裸んぼだよー」

 ムチャは会場をバク転や宙返りをしながら奇声を上げて飛び回る。そしてその中に口をあんぐり開けているケンセイの姿を見つけた。


 ケンセイごめんなさいケンセイごめんなさいケンセイごめんなさいケンセイごめんなさいケンセイごめんなさいケンセイごめんなさい


 ムチャは心の中で謝りながら暴れまわった。

 神官の前で尻を振り、参列していた巫女候補達に股間を見せつけた。巫女候補達は手で顔を隠しながらバッチリ見ていた。

「奴を捕らえろ!!」

「奴は何者だ!?」

「神聖な儀式を何だと思っている!?」

 権力者達は怒り狂いムチャを捕らえようと躍起になる。だが動き辛い礼服を着た権力者達が、全裸で身軽なムチャを捕らえられるはずもなく次々とすっ転んだ。やがて剣を持った護衛達がステージに上がって来たが、ムチャは護衛達を数人纏めて蹴り飛ばす。


 最初は騒然としていた民衆達がその様子を見て笑い出した。笑いは次々と連鎖して、会場は笑いの渦に包まれる。神官や権力者達はそれを鎮めようとしたが、ムチャが彼らを挑発し、更に笑いを誘発した。

 巫女候補達も笑っていた。


 その様子を見ていた少女も不思議と笑みがこぼれそうになる。心のどこかで笑ってはダメだ、笑ってはダメだと抑制する声が聞こえるが、笑ってはいけないと思うほど笑いが込み上げて来た。


「ふふっ……」


 ついに少女が笑った。

 それを見てムチャが少女に駆け寄り手を差し出した。

「わ……笑ったな!?」

 少女は笑いを隠しながらポツリと言った。

「……前、隠して」

 そう言うと少女はムチャの手を取った。

 ムチャと少女は会場の出口へと駆け出そうとする。

 しかし、その前にはズラリと兵隊達が立ちはだかった。

「貴様、覚悟はできているだろうな……」

 先頭に立つ兵の後ろには、物凄く笑いを堪えながら苦い顔をしているケンセイがいた。

「さぁ、巫女様、こちらへ」

 一人の神官が少女へ手招きをする。

 少女はそれに応え、ムチャの手をほどき神官の元に駆け寄った。

「えっ?」

 ムチャは物凄く裏切られた気がしたが、少女には他の目論見があった。少女は神官の持つ杖を奪うと、再びムチャの手を取った。そして杖に魔力を込める。

「飛翔」

 少女が唱えると少女を乗せて杖が上空に舞い上がった。ムチャは少女の腕に捕まったまま宙ぶらりんになる。

「のわぁ! 落ちる!」

「暴れないで」

 杖は更に上空に上ってゆく。

 ムチャが下を見ると、唖然としている人々の中で、ケンセイがしっしっと手を振っていた。

「どこに行く?」

「と……とりあえず服を隠してるあの森まで」

 少女が魔力を込めると、杖は会場を後にして飛び始めた。杖はびゅんびゅんと飛び、あっという間に会場は見えなくなる。



「そういえばお前、名前は?」

 ムチャは色々ぶらぶらさせながら聞いた。


「えーと、トロン、私はトロン」

 少女の微笑みが青空に映えた。

「トロンか! よろしくな、トロン」


 こうして二人の旅が始まったのだ。




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