番外編3〜ナップのその後〜

「それでは、少年とグリフォン千秋楽、お疲れ様でし! かんぱーい!」


「「かんぱーい!!」」


 コペンの音頭で劇団員達は一斉にグラスを合わせる。

 劇場の楽屋では、舞台「グリフォンと少年」の打ち上げが行われていた。

「いやー、ハンス君、初主演お疲れ様でし! ワンステージずつ演技のクオリティが上がって実に良かったでしよ!」

 コペンは、舞台「少年とグリフォン」で主演を務めた劇団員のハンスの手をぺちぺちと叩いた。

「いやー、僕はまだまだですよ。前座のナップさんが会場を温めてくれたからリラックスして演技できたんです」

 ハンスはそう言ってナップを見た。

「いや、そんな事ないよ。ハンスの演技は本当に良かったよ。声量がまだ少し足りないけど、それをカバーして有り余る繊細な演技がお客さんに受けたんだと思う。無理して大きな演技をするより、今後は強みを伸ばしていったらどうかな」

 ナップはぐいっとグラスを煽った。

「ナップさん、俺の演技はどうでしたか?」

「ナップさん、私あそこのセリフが……」

「ナップさん! 今度アクションを教えてくださいよ!」

 劇団員達が次々とナップの元に集まってくる。

「ははは、順番順番!」

 ナップはすっかりコペン幻想劇団に馴染んでいた。

「いやー、ナップもすっかり劇団の仲間でしね」

「いえいえ座長、私もまだまだ勉強する事だらけですよ。今まで二枚目としてやってきたので本気で滑稽な事をするのがまだ恥ずかしくて」

 劇団員達はハハハと笑った。

「こら! 今のは笑うところじゃないぞ!」

 そう言ってナップも笑った。

「で、ナップは何でまだここにいるでし?」

「え?」

「トロンの魔法はとっくに解けてるんじゃないでしか?」

「私は一度引き受けてしまった事は最後までやりきる主義なのです!」

 ナップはそう言って胸を張った。

「感神教の任務とやらはいいでしか?」

「任務? ……任務って…………」

 ナップはハッとした。トロンはあの時ナップに忘却の魔法もかけていたのだ。

「み……巫女様! 早く巫女様を連れ戻さねば!」

 そう言ってナップはドタバタと旅支度を始める。

「誰だ!? 私の剣を小道具入れに入れたのは!?」

 ナップの剣は竹光や木刀と共に小道具入れにぶち込まれていた。

「え? それ本物だったんですか?」

「馬鹿者! なかなかの名剣なんだぞ! では、世話になったな!」

 ナップが楽屋を飛び出そうとすると、その前にコペンが立ち塞がった。

「待つでし」

「座長! 邪魔しないでください!」

 するとコペンは劇団員の一人に小さな袋を持って来させた。

「ギャラでし。受け取るでし」

 その袋をナップに差し出す。

「ざ……座長……こんなに受け取れません」

 ナップは中身を見て慌てて袋を突き返した。

「これはナップがお客さんを笑顔にした分でし。ちゃんと受け取らなきゃお客さんにも失礼でし。どうしてもいらないと言うのならドブにでも捨てるでし」

 そう言ったコペンの目は鋭かった。

「座長……」

 ナップは袋をギュッと握りしめる。

「短い間でしたが……お世話になりました……」

 そして深々と頭を下げた。

「打ち上げはこれよりナップのお別れ会に変更でし。明日の朝まではうちの劇団員でいてくれないでしか?」

「「ナップさん……」」

 ナップが振り向くと、劇団員達が皆涙目でグラスを握りしめていた。

「みんな……」

 ナップの目にも涙が浮かんだ。

「よし、わかった!! 今日は朝まで飲むぞー!!!!」


「「おー!!!!」」


 こうして打ち上げ兼ナップのお別れ会は大いに盛り上がった。


 それでいいのか!? ナップ!?

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