ニコル達との別れ

 ニコルを笑わせる事に成功したムチャとトロンはめでたく御役御免となった。ニコルとリベラは当初約束していた報酬より倍以上の報酬を差し出してきたが、ニコルを笑わせたのは実質リベラだと二人は主張し、結局約束していた報酬の半額だけを受け取った。


 ニコルとリベラから食料や水を分けて貰い、旅の支度を整えたムチャとトロンは、見送りの二人と共に屋敷の門の前に立っていた。

「もっとうちに居てくれたら良かったのに」

 ニコルはムチャの服の袖を引いた。目にはうっすらと涙が浮かんでいる。

「悪いなニコル、世界にはまだまだ笑いを必要としている人々がいるのさ」

 ムチャは無駄にキリッとした顔で言った。

「お二人ともお元気で、旅の無事をお祈りしています」

 リベラは二人と握手を交わした。

「リベラさんもお元気で」

「あんまりニコルに厳しくし過ぎるなよ」

 ムチャが言うとリベラは少し恥ずかしげに笑った。

「次に二人が来たら、僕がリベラとお笑いをやるよ!」

「マジかよ!? 楽しみにしてるぞ!」

 リベラの笑いが苦笑いに変わった。

「こうして話してたら旅立つのが辛くなっちまうな。そろそろ行くとするか」

「うん」

「じゃあ、元気でな!」

 そう言ってムチャとトロンは二人に背を向けた。

「バイバーイ! 元気でねー!」

 二人の背中を見送りながらニコルは大きく手を振った。


 その時、遥か遠くの上空に飛龍らしき影をリベラは見つけた。

「飛龍……最近よく見るわね……」

 リベラは不安そうな顔をした。

「え? 何が?」

 ニコルがリベラを振り返る。

「いいえ、なんでもありませんよ坊ちゃま」

 リベラはニコルの肩を抱き微笑む。


「ただ、あの二人に旅の神と、笑いの神の加護があらん事を……」


 リベラは呟き、二人の背中が見えなくなるまで見送った。



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