熱血!フェアリーボール!15

 クリバー学園チームは負傷した男子生徒の代わりに、補欠の男子生徒を一人加えて試合を再開する。

 攻守が入れ替わり、次はテキム学園チームの攻撃だ。

 試合再開のホイッスルが鳴り、テキム学園チームのメンバーが一斉に走り出す。

「「煙よ」」

 テキムのマジッカー達は走りながら同時に煙幕の呪文を唱えた。四人のマジッカーによる煙幕魔法で、向かってくるテキム学園チームの姿が一瞬で見えなくなる。クリバー学園チームのメンバーは攻撃に備えて身構えた。

「マジッカー! 風魔法を!」

 リャンピンが指示を出した次の瞬間、煙の中から凄まじい速度でボールが飛んできて、マジッカーの女子生徒の顔面に直撃した。

「ぎゃっ!」

 女子生徒の顔面にぶつかったボールは跳ね返り、再び煙の中へと消える。

 クリバーチームのマジッカー達が慌てて風魔法を発動させたが、既に遅かった。煙はクリバーチーム側まで侵食し、フィールドの殆どが煙に包まれる。

(相手は? ボールはどこ?)

 リャンピンは気配で相手を探るが、敵味方複数の気配が混ざり合い、正確に敵を見つける事ができない。

 すると、視界が閉ざされたフィールドのあちこちからチームメイト達の悲鳴が聞こえてきた。


 ぎゃー!

 きゃあ!

 ぐあっ!


 そして数秒の後、テキム学園チームの得点を知らせるホイッスルが鳴った。

 何もできなかったリャンピンが呆然としていると、ゆっくりと煙が晴れて、視界が開ける。フィールドには三人のクリバー学園チームの選手が倒れており、その中にはマリーナの姿もあった。

「マリーナ!」

 リャンピンは一番近くに倒れていたマリーナへと駆け寄る。彼女の顔面には明らかに拳による打撃の跡があった。

「キ、キャプテン……ごめんなさい」

 マリーナは一言だけそう呟き、意識を失う。

 倒れている他の二人も負傷したらしく、フィールドには複数の担架が運び込まれた。

「審判!」

 リャンピンは審判に抗議をしたが、煙幕により周りが見えずにぶつかっただけだというテキム学園チームの言い分が通されてしまった。


「ちくしょう! あいつら卑怯だぞ!」

「許せない」

 ムチャとトロンはベンチで怒り狂った。ムチャは今にもフィールドに飛び出しそうである。しかし、今飛び出してしまえば試合が台無しになってしまい、皆の努力が無駄になる。ムチャは剣を抜きそうになりながらもグッと堪えていた。


 しかし、怒っているのはムチャ達だけではなかった。リャンピンもまた、内なる怒りに燃えていたのだ。

「そう、フェアリーボールに「武」を持ち込むんだね……」

 リャンピンの肩が、怒りにブルブルと震える。

 そしてリャンピンは、両手に着けたリストバンドを外して、フィールドの外に放り投げた。


 ズーン!


 放物線を描いて地に落ちたリストバンドは、音を立てて地面にめり込む。

 それはリャンピンが常々「武」の修行ために身につけており、入浴の時以外は決して外す事の無いリストバンドであった。


「目には目を、歯には歯を、武には……武を!!」


 リャンピンはブチ切れていた。

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