熱血!フェアリーボール!14

 ハーフタイムが終わり、試合は後半戦へと進む。

 幸いクリバー学園は割と涼しい地域にあるため、フィールドの氷は殆ど溶けていない。むしろ程よく溶けてより滑りやすくなっている程だ。

 前半の泥試合の様相を、競技場の観客達はレオとハリーノと同じように、正直かなり意外だと思っていた。

「あの噂に名高いテキム学園が得点できないなんて」と。そして、「もしかしたらクリバー学園の勝利もありえるのではないか」と思っていた。

 しかし、観客達は後半戦開始直前に、その予想があり得ないという事を思い知らされる。


「テキム学園チーム、選手交代のお知らせをします」


 そうアナウンスが流れた後、各ポジションと十名の名前が呼ばれた。十名。フェアリーボールの一チームのメンバーは十名、つまり総取っ替えである。

 クリバー学園チームのメンバーは戦慄した。

「嘘だろ……」

 新たにフィールドに出てきた十名は、先程のメンバーとは比べ物にならぬ程のオーラを放っていた。

「さっきまでのメンバーは……二軍!?」

 そう、テキム学園チームは、前半戦は二軍のメンバーのみで戦っていたのだ。つまりどう見ても十代前半に見えない奴も、必殺技持っていそうな奴も、修行僧みたいな奴も、みんなかませ犬であったのだ。


 メンバーがざわめく中、リャンピンが皆に声をかける。

「大丈夫! 相手が変わってもさっきの作戦通りに戦えばきっと勝てるよ!」

 リャンピンの言葉に、皆が冷静さを取り戻す。しかし、最も不安を感じているのは他ならぬリャンピンであった。

 後半戦はクリバー学園の攻撃から始まる。

 ボールを持つリャンピンは「ここで一点を入れて、後はそれを絶対に守りきるんだ」と気合いを入れた。


 後半戦試合開始のホイッスルが鳴る。


 次の瞬間、テキム学園チームのディフェンダーの一人が、足を思いっきり氷上に踏み込んだ。


 ビシビシビシビシ


 彼を中心に、フィールドを覆う氷にヒビが入る。そして次に、彼を含む五名のディフェンダー達が同時に足を踏み込む。


 バギィン!


 テキム側のフィールドを覆う氷が粉微塵に砕け散った。

「嘘!?」

 走り出していた。いや、滑り出していたリャンピンは慌てて足を止める。すると、リャンピンの元に二人のディフェンダーが襲いかかった。

(殺気!?)

 リャンピンは素早く味方アタッカーにパスを回す。

 しかし、次の瞬間それを後悔した。

 リャンピンに襲いかかってきたディフェンダー達は、瞬時にターゲットを変え、パスを回された男子生徒へと向かう。そして彼に対し、二人同時に掌底をぶちかましたのだ。


「がはぁ!!」


 掌底を食らわされた男子は顔面と腹を打たれ、苦しそうにフィールドに倒れた。

 ホイッスルが鳴り、審判が慌てて彼に駆け寄る。

「おい! 君、大丈夫か!?」

 男子生徒は悶絶して何も答えられない。

 すぐに担架が用意され、彼はフィールドの外に運び出される。

「君達! 今のは故意的な攻撃じゃないか!?」

 審判がテキムチームのディフェンダーに詰め寄ると、彼等は「タッチしようとして勢い余っただけだ」と主張した。それを聞いて審判は少しだけ悩み、警告だけをすると、リャンピンに交代の選手を出す事を告げてその場を離れる。


 ディフェンダー達は故意ではないと言っていたが、リャンピンは確かにあの時殺気を感じ取っていた。

 そして審判が去る時に、彼等が笑みを浮かべたのを見た。


 果たしてクリバー学園チームは彼等に勝てるのか?

 いや、無事にフィールドを出ることができるのであろうか?

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