熱血!フェアリーボール!16

 三名の負傷した選手の交代が終わり、次はクリバー学園チームの攻撃である。

 しかし、新たに加えられた選手は皆一年生で、先程の惨劇を見てひどく怯えていた。いや、彼等だけではない、リャンピンを除くチーム全体が怯えていたのだ。

 だが、彼等は怯えながらもフィールドに立ってくれている。味方がやられて許せないのはリャンピンやムチャとトロンだけではなかった。

「あんな奴らに負けられない」

 彼等の目には覚悟と決意が宿っていた。

 試合再開のホイッスルが鳴る。

 ボールを持つのはリャンピンだ。

 テキムチームのディフェンダー達はホイッスルと同時にリャンピンへと駆けるそして殺気を放つ掌底を繰り出してきた。


「逃げろリャンピン!」

 ベンチからムチャが叫ぶ。

 リャンピンはなぜか真っ直ぐに前を見据えたまま棒立ちをしており、ディフェンダーの掌底はリャンピンに当たるかと思われた。

 しかし。


 フッ


 ディフェンダーの掌底が空を切る。

 そこにあったのはリャンピンの残像だったのだ。

 ディフェンダーが振り返った時、リャンピンは既にテキムチームのフィールドに駆け込んでいた。

 ベンチにいるムチャは、走るリャンピンの全身から赤いオーラが出ているのを確かに見た。

「あれは、感情術!?」

 それはムチャやナップが感情術を使う時に放たれるオーラによく似ている。しかし、リャンピンが使うそれは感情術では無い。それは「心気功」というリャンピンが修めている東方武術の技の一種であった。

 生き物の体を巡る「気」と、己の心を練り合わせて武術に活かすその技は、感情術にとても良く似ている。


 襲い来るテキムチームのディフェンダー達を、リャンピンは皆の見た事の無い歩法で躱しながら、ゴール前まで突っ走る。そしてシュートを放とうと身構えたリャンピンに、テキムチームのディフェンダー達が迫った。

 そこに、リャンピンに追い付いたクリバーチームのアタッカー達が割って入る。彼等はリャンピンに目配せをし、シュートを促す。リャンピンは頷き、全身を巡る心気功をボールへと送った。すると、ボールは凄まじい勢いで回転を始める。


「ぜあぁぁぁぁぁぁぁあ!!」


 リャンピンが雄叫びをあげて腕を振りかぶった瞬間、テキムチームのキーパーが跳んだ。タイミングは完璧、彼は体を張ってシュートを受けるつもりなのだ。リャンピンはゴールに向けて渾身の一撃を……


 放たなかった。


「え?」

 タイミングを計り跳躍したキーパーは間抜けに宙を舞い、ボテッと地に落ちる。リャンピンはその隙に、ガラ空きになったゴールにポイッとボールを投げ入れた。

 得点を知らせるホイッスルが高らかに鳴る。

 少し間を置いて、歓声が競技場に響いた。

 エスペリアなどはレオとハリーノが耳を塞ぎたく鳴るほど、首から下げた笛を吹きまくっている。


(笑いは裏切り、でしょう?)

 あの時リャンピンは怒りに任せてキーパーごとゴールにシュートをぶち込む事ができたかもしれない。しかし、彼女はそうしなかった。リャンピンは武術家としてではなく、フェアリーボールプレイヤーとして戦う道を選んだのだ。

 リャンピンはチームメイト達とハイタッチを交わしながら、チラリとベンチの参謀達を見た。

「あれ?」


 そこに参謀達の姿はなかった。

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