ナップの回想6

「天、天、突き、突き、天、地、払い! 天、天、突き、突き、天、地、遅い!」

 ナップがフロナディアに稽古を付けるようになって三日が過ぎた。今日も二人は屋敷の庭で剣の稽古に汗を流している。フロナディアは次々と出されるナップの指示通りに剣を振るう。

「フロナディア様、一振り一振りに己の感情を乗せるようにもっと気迫を込めて下さい。実戦では剣の腕と同等に気迫がモノを言うのです!」

「はい!」

「では、続いて実戦稽古に移りましょう」

 ナップは木刀を手にし、フロナディアの前に立って構えた。


 しばらくした後、稽古を終えた二人は木陰にて昼食を食べていた。フロナディアの隣にはバスケットが置かれており、中には山程のホットドッグが詰め込まれている。

「はい、ナップ様、あーん」

 ナップの口にフロナディアお手製のホットドッグが押し込まれる。

「モグモグモグ……しかし……モグモグモグ……フロナディア様は筋が良いですね……モグモグモグ……」

「いいえ、私などまだまだですわ。はい、あーん」

「モグモグモグ……基本は荒いですが……モグモグモグ……しっかり相手をイメージして……モグモグ……剣を振っておられる……モグモグ……」

「要塞の兵士さん達とずっと擬似戦をしておりましたから。今もお爺様が要塞に行く際にはついて行きますのよ」

「なるほど……ゴクン」

 フロナディアはコップに紅茶を注ぎ、ナップに差し出す。

「強くなるためにはやはり基礎が大切なのですか?」

「そうですね、それこそ死ぬほど実戦経験を積めばその必要は無いのかもしれませんが、基礎を繰り返す事でパターン化された動きを反射的にできるようになり……あちっ!」

 ナップは猫舌であった。

「ですから素振りや型も侮れないのですよ。それから筋力トレーニングも必要ですね。筋力や持久力は戦力に直結しますから」

「あら、筋肉なら自信ありますわよ。ほら」

 フロナディアはペロリと上着をめくり、ナップに腹を見せた。フロナディアの腹はユニコーンの毛のように白く、キュッと引き締まっており、腹筋がうーっすらと割れている。その中心には可愛らしいおヘソが刻まれていた。

「フ、フロナディア様、はしたないですよ」

 と、言いつつ、ナップは吸い込まれるようにフロナディアのおへそを注視する。

「ナップ様?」

「あ、いえ、なんでもありませんヘソナディア……フロナディア様!」

 ナップの顔はほんのり赤くなっていた。

「強くなるには他に何が必要ですの?」

「あ、あとは……実戦経験はもちろん、他者の戦いを見る事も大事ですね。フロナディア様はイメージする力や吸収する力が強いので、他者の戦いを見る事で、それを何度もイメージして吸収して己の武器にできるはずです。現にフロナディア様の太刀筋は、最初は要塞の兵士達に近かったのに、もう私の動きに近づきはじめてきていますからね」

「うふふ……私はここ最近ずっとナップ様の事ばかり考えていますからそうなったのですわ」

 フロナディアの言うことは本気か冗談かいまいちわからない。

「剣を振る時の癖とか重心の切り替えとか目線の動きとかフェイントの入れ方とか足運びとか剣先の動きとか手首の返しとか歩き方とかご飯の食べ方とか水浴びの仕方とか……」

 頬に手を当てて照れたように言うフロナディアが、ナップは少し怖くなった。

「まぁ、相手をよく観察するのは良い事ですね……」

 ナップがぬるくなった紅茶を口に運ぶと、フロナディアが思い出したように言う。

「そういえば、私色々な猛者達の戦いを見る事ができる場所を存じておりますわ」

「ほう、そんな場所があるのですか?」

「えぇ、このケルナの街の外れには闘技場がありますの!」

「なるほど、闘技場での戦いを見るのはよい勉強になりそうですね」

ナップがそう言うと、フロナディアはナップにズイッと顔を近づけた。

「ナップ様、デートがてらに是非行きましょう! 私、一度行ってみたかったんですの!」

 フロナディアの目がキラキラと輝いている。

「良いですね、しかしデートではなく、稽古の一環ですよ」

 堅物ナップは顔を引きながら首を縦に振った。

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