ナップの回想14

 ナップとフロナディアは驚き、慌てふためいて声のした方を見た。すると、閉じていたはずの窓がいつのまにか開いており、カーテンが風で揺れている。そして窓際の壁には大きな人影が腕を組んで仁王立ちしていた。

「あぁ、邪魔してすまない、そのまま続けてくれ」

 その人物は身長二メートルを優に越える巨漢で、その顔の下半分は何年剃っていないのかすらわからない髭で覆われていた。そしてその全身は岩のような筋肉で覆われており、月光に照らされてテカテカと光沢を放っている。人に近いゴーレムだと言われたら信じてしまいそうだ。そしてなぜかその人物は上半身裸であった。


『ひいぃ!!??』


 小綺麗な部屋に似合わぬその異様な風体の男の出現に、ナップとフロナディアは悲鳴をあげる。そしてベッドから転がり落ちると、ナップは愛剣を、フロナディアは稽古用の木刀を手に取って構えた。

「だだだだだ誰だ貴様!?」

 ナップの声は驚きと恐怖と恥ずかしさで震えている。しかし剣先はピタリと怪しすぎる巨漢に突きつけられていた。

「ん? どうした。どうぞ続けてくれ。生殖は生き物にとって最も大事な行為だからな」

 男は相変わらず仁王立ちしたまま、事も無げに言う。

「ふざけるな! 何者かと聞いている!?」

「ふむ……まぁ良いだろう。突然の訪問済まない、俺はこういうものだ」

 男はガッシリと組んだ丸太のような腕を解くと、ズボンのポケット、ではなく、股ぐらに手を突っ込み、一枚の小さな長方形の紙を取り出した。男がそれを軽く投げると名刺は回転しながら飛び、ナップとフロナディアの間にある扉に突き刺さる。

 フロナディアがその紙を扉から抜こうとしたが、ばっちい所から取り出した物をフロナディアに触れさせる事を許せなかったナップがそれを制止し、摘むように引き抜いた。

 紙には何やら文字が書かれており、月明かりに照らして見ると、それは名刺であった。名刺にはこう書かれていた。


 ケルナ闘技場支配人

 ゴディバドフ・ロックパンチ


 それを見た二人は顔を見合わせた。

「まぁ、そういうものだ」

 そして二人は髭もじゃの巨漢の顔をマジマジと見つめた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る