ナップの回想13
その後、リングを降りたナップとフロナディアは、二人を誤ってリングに上げた闘技場の係員に土下座され、その日の試合の賞金とお詫びの品を受け取った。
闘技場のある廃屋敷を出ると、屋敷の外では先程喧嘩していた四人組のうち、二人が仲良く伸びていた。二人の側にはやはり二つの仮面が転がっていた。
そしてナップとフロナディアは、シャンデリアに跨り、来た時とは違いゆっくりとグリームス邸へと帰った。
「いてててて……」
ナップの部屋では、パンツ一枚になったナップがベッドに腰掛け、隣に座るフロナディアに薬を塗って貰っている。
「ナップ様……本当に申し訳ありません。私のせいであのような事になって……」
フロナディアはあちこち赤く腫れたナップの体に薬を塗りながら、しょんぼりと視線を落とした。
「いえ、謝らなければならないのは私の方です。フロナディア様を危険な目に合わせてしまい、挙げ句の果てに助けられてしまうとは……」
ナップは悔しそうに唇を噛み締めた。
「やはり私などただの未熟者です……」
「そんなことありませんわ! 私が殴られた時のナップ様は本当にカッコ良かったです。それにナップ様がやられたのは相手が卑怯な手を使ったからですわ」
「しかし、あれが実戦であれば我々は死んでいました」
その言葉にフロナディアは黙り込んだ。二人にとって、今日の勝利は敗北と同義であったのだ。
しばらく黙り込んで薬を塗っていたフロナディアは、ふと思い出したように言った。
「そういえば、こうすれば治癒の効果があると言っておりましたね」
フロナディアは目を閉じて深く息を吸い、体から黄色いオーラを立ちのぼらせる。そしてそれをナップの体に薬を塗る手に集中させ、ナップの体へと流した。
「ぎっ!? 痛い痛い痛い!! 痛いですフロナディア様!!」
ナップの体にビリビリと痛みが走り、思わず悲鳴をあげる。それを聞いてフロナディアは感情術を止めた。
「あら?」
「フロナディア様、癒しの効果を持つのは楽の感情術です! まだ感情術の扱いに慣れていないのでむやみに使ってはいけません」
「申し訳ありません……」
ちなみにフロナディアが使ったのは、活性を司る喜の感情術で、使い方によっては癒しにも使えるのだが、感情術の扱いに慣れていないフロナディアは痛みを活性化させてしまったのだ。
「まだまだ修行せねばなりませんね」
「それは私も同じです。しかし、剣を教わるのが私のような男で本当によろしいのですか? あのような失態を見せてしまったのに」
フロナディアは頷く。
「逆ですわ、私は今日のナップ様のお姿を見て、やはりこの方しかいないとすら思いましたの……色々な意味で」
その顔はほんのりと赤くなっていた。しかし背を向けるナップからは、その顔を伺う事は出来ない。
するとフロナディアは突然、ナップに抱きついた。
「ぎっ!?」
フロナディアの抱擁により、ナップの体に痛みが走る。しかしその痛みは腕にに当たる柔らかな感触に相殺された。
「ふ、フロナディア様?」
フロナディアはナップを抱き締めながら言った。
「本当は私、今日とっても怖かったんですの……助けて下さったナップ様のお背中は逞しくて、素敵でした」
「そ、それは……お褒めいただき……ありがとうございます」
ナップの耳にフロナディアの吐息がかかり、背にゾクゾクとしたものが走る。
「でも、ナップ様がやられそうになった時、あの時ナップ様が死んでしまうんじゃないかと思って……私……無我夢中で……」
フロナディアの声は震えており、目には涙が溜まっている。
ナップは横から抱きしめるフロナディアの手を取った。
「フロナディア様、私はもっと強くなります。守るべき人を守れるように……」
「私ももっと強くなります。せめて自分の身くらいは守れるように……」
フロナディアは抱擁を解く、二人は指を絡ませ、互いに見つめ合った。窓から差し込む月光が、二人の横顔を照らす。部屋には静寂が訪れ、フロナディアは「ナップ様……」と言うとゆっくり目を閉じた。
ナップはフロナディアの肩を抱き、顔を近づける。
「よう、お二人」
二人の唇が触れ合いそうになったその時、部屋の中から野太い声が聞こえた。
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