クリバー学園の怪談5

 そうこうしているうちに、トロンとリャンピンが旧校舎に入ってから五分が経過した。ムチャはしょぼくれているレオの手を引いて、旧校舎の入り口へと向かう。

「じゃあ、俺達行くからな」

 ムチャがハリーノとエスペリアの方を振り向くと、二人はまだジリジリと距離を開けたり詰めたりを繰り返している。

「俺達がいないからってイチャつくなよー」

 ムチャの冷やかしを聞いて、エスペリアが顔を赤らめて怒鳴った。

「い、イチャつくだなんて! バカな事言ってないで早くお行きなさい!」

「へーい、ほら、レオ行くぞ」

 そしてムチャは、旧校舎の扉に手をかける。扉を引くと、古ぼけた木製の扉がギギギと不気味な音を奏でて開いた。中を覗き込むと、窓から射し込む月明かりで校舎の中は案外明るい。しかし、夜の学校とはムチャの想像以上に不気味であった。


 ゴクリ……


 ムチャは唾を飲み、レオを引きずるように校舎へと入り、扉を閉める。カビ臭い匂いが、ムチャ達の鼻をついた。

「うへー……不気味だな。トロン達はどこ行ったかな……」

 玄関ホールから廊下を歩き出すと、うなだれていたレオがハッとして口を開く。

「あ! 忘れてた」

「何をだ?」

「肝試し始める前に、この校舎に纏わる怖い話するの」

「えー……段取りグダグダかよ」

「まぁ、せっかくだから歩きながら話そう」

 そう言ってレオは軋む廊下を歩きながら語り出す。


「昔な、この学園ができたばかりの頃、魔術学科のとある女子生徒が虐めにあっていたらしいんだよ。それでその子はいじめっ子に復讐をするために、毎晩学校に忍び込んで呪いの練習をしていたんだ。その子は色んな物を呪いの練習台にして呪いのアイテムを量産し続けたんだけど、いざいじめっ子に呪いをかけようとした時に呪いが暴走して、自分に呪いが降りかかり死んでしまったらしい」

「それはお気の毒というか、何というか……」

「それでな、死んでも死に切れなかったその子は、自らの呪いの影響で未だに成仏できず、この校舎の中をさまよっているらしいんだ。しかもその子の量産した呪いのアイテムが、この校舎には未だに大量に保管されてるんだぜ……」

 レオは立ち止まり、ムチャを上目使いで見て「ケケケ」と笑った。


「……レオ、お前怖い話するの下手だな」

「マジか!? 怖くなかったか!?」

 ムチャは元々怖い話には強いが、それを差し引いてもレオの話は怖く無かった。夜の校舎というシチュエーションを加味してもだ。


「うーん、脅かし要素もないし、なんか死に方が滑稽だし、さまよってるからって具体的に何するかわからないし。とにかく怖く無い」

「だよねー」

「でも、これまで何人もその女子生徒の霊を見たやつがいるって話だぜ」

「いや、リアリティの問題じゃない。まずは話し方だな。怖い話っていうのはもっとこう、低いトーンで始めて、徐々にヒートアップしたりガクッと落としたり緩急をつけて……ん? ちょっと待て、お前「だよねー」って言ったか?」

 急に話を振られたレオは、ムチャの顔を見て、ふるふると首を横に振る。


「でも誰か「だよねー」って言ったよな」

「おう、でも俺じゃねぇって」

「じゃあ、誰が……うっ」

 ムチャとレオは背中に寒気を感じて、恐る恐る振り返った。

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