対決、ブレイクシア城1
ゴゴゴ……
二人が城門へ近づくと、城門は音を立てて開いた。その向こうには、額に角を生やした鬼族の女、ブレイクシア軍参謀のキーラが立っていた。
「ようこそ、ブレイクシア城へ」
キーラはムチャとトロンに恭しく礼をする。
「なんだ、お出迎えか?」
ムチャは剣を構え警戒した。しかしキーラには戦闘の意思は無さそうである。
「お待ちしておりました。城主ブレイクシア様の命によりお出迎えに参りました、ブレイクシア軍参謀のキーラと申します」
「これはどうも、御丁寧に」
ムチャとトロンも恐る恐る礼を返した。
「あの、これはブレイクシア様からではなく、私からのお願いなのですが、ブレイクシア様はこれから王国軍との一戦が控えております故に、今日の所はお引き取り願えないでしょうか? できれば二度と来ないでいただけると助かります。あなた方の為にも」
「いやいや、ブレイクシアが俺達に来いって言ったんだぞ、ブレイクシアの所まで案内してくれよ」
「……ブレイクシア?」
主を呼び捨てにされたキーラの目尻がピクリと動いた。
「それに、ミノさんに怪我させた事を謝って貰わないとな」
それを聞いたキーラの目尻がまたピクピクと動いた。
「お言葉ですが、ブレイクシア様が人間のあなた方に請われて、誰かに頭を下げる事はあり得ないと思いますが」
「何でだよ」
「何でも何も、ブレイクシア様が頭を下げるのは新生魔王様以外にはあり得ません。そういうお方なのです」
「それ、あんたがそう思ってるだけじゃ無いの?」
キーラの目尻が三度ピクつく。
「私はブレイクシア様の参謀として、ブレイクシア様の野望の妨げになる者には、ブレイクシア様に近寄って欲しく無いのですよ」
「でもあんた、ブレイクシアに俺達を出迎えるように言われたんだろ?」
「出迎えろとは言われましたが、ブレイクシア様の元に連れて来いとは言われていません」
「屁理屈かよ。じゃあ、どうしろって言うんだ?」
その時、トロンがムチャの袖をくいくいと引いた。
「……ムチャ、あの人」
「何だ?」
トロンはボソボソと言った。
「ブレイクシアの事好きなんじゃない?」
「あー、なんかそんな感じだな」
二人がキーラの方を見ると、キーラの顔がボンッと赤くなった。どうやら聞き耳を立てていたらしい。
「なるほどな。まぁ、あんたが誰を好きになるかは自由だけどさ、あいつはやめた方がいいよ。手から何か出すし」
「性格キツそうだしね」
「嫁さん働かせてギャンブルやりそうだよな」
「家庭内暴力凄そう」
「それに……」
「うるっさーーーーーーーーい!!!!!」
顔を真っ赤にしたキーラが咆哮した。あまりの声量に空気がビリビリと震える。
「貴様らにどうこう言われる謂れは無いわ!!!!」
キーラの周りにズモモモと禍々しいオーラが渦巻く。
「ブレイクシアもだけど、あいつもヤバそうだな……」
「ヒステリー?」
「どっちかと言うと照れの延長みたいな感じだな」
二人がひそひそと話していると、キーラはギロリと二人を睨みつけた。
「き、貴様らがブレイクシア様にお会いするのに相応しいかどうか試してやろう!!」
「もっともらしい事言いだしたな」
「ミノさんより片思い拗らせてるね」
「うるさい! 行け! ゴブリン部隊!」
キーラが命じると、城門の裏から次々とゴブリン達が現れた。その数は五十を下らない。
「最初から案内する気無かったんだな」
「みたいだね」
「まぁ、観客は多いに越した事は無いけどな」
「私のブレイクシア様への想いを知って生きていた者は居ない!」
キーラはそう言ったが、ブレイクシアはその様子を水晶玉でバッチリ見ていた。
「キーラめ、余計な事をしおって。まぁ良い、ここで倒れるくらいならそれまでの奴らだという事だ」
そしてブレイクシアはふと考えた。
「しかしな……これからキーラにどう接したら良いものか……」
ブレイクシアは色恋沙汰に疎かった。
現れたゴブリン達が、次々とムチャとトロンに襲いかかってくる。ムチャはトロンを庇うように前に出て、迫り来るゴブリン達に斬りかかった。
「トロン、こいつらを一気に倒す方法は無いか?」
ムチャはゴブリン達の爪を躱し、引きつけた数体のゴブリンを一振りで吹っ飛ばす。
「これだけ数がいると感情魔法使わないと難しい……」
トロンは杖から雷を放ち、ムチャが切り損ねたゴブリンを感電させた。
「それはダメだ、ブレイクシアに会うまで温存しないと。それにまだあいつもいるうっ!?」
ムチャが立っている大地がトゲ状に隆起し、ムチャに襲いかかる。ムチャがどれだけステップで躱しても、地面の隆起はムチャを追ってくる。更にはゴブリン達も攻撃に加わり、ムチャは防戦一方となった。
「ちくしょう! すっげー邪魔だ!」
「ふははは! 恋する乙女は強いのだ!」
キーラは地面に杖を突き立てて、魔力を流し続ける。その目はかなりイッちゃっていた。
すると、突然地面が隆起するのを止めた。
「何!?」
キーラが辺りを見渡すと、トロンが杖を大地に突き立てているのが見えた。トロンはキーラと同じように、大地に魔力を流してキーラの魔法を相殺していたのだ。
「ナイストロン!」
キーラの妨害が無くなり、ムチャは再びゴブリン退治に転じた。
「人間風情が生意気な。だが相手は私だけでは無いぞ!」
数体のゴブリンが、ムチャを無視してトロンの方へ向かう。
「トロン!!」
魔法を相殺するために無防備になっているトロンに、ゴブリンの爪が迫った。
その時である。
「あちょー!!」
何者かがトロンを襲ったゴブリンに、人間業とは思えない速さで飛び蹴りをぶちかました。ゴブリンは吹っ飛び、他のゴブリンを巻き込んでゴロゴロと転がる。まるで交通事故だ。何者かは宙返りをしてトロンの隣にスタッと着地した。
「二人とも大丈夫?」
「ニパ、どうして……」
それは半獣と変身したニパであった。
「おのれ、貴様は何者だわあぁぁぁあっ!?」
叫ぼうとしたキーラの側に、氷の槍がグサグサと突き刺さる。
「次から次へと何だ!?」
いつの間にか、城壁の上に紫色の煽情的な服を着た女が立っていた。
「ただの魔法大道芸人よ」
そしてそれはもちろんプレグである。
「プレグ!? どうしてお前らがここに?」
「気まぐれよ気まぐれ。それより、ここは私達に任せてさっさと先に行きなさい」
「お客さんが待ってるんでしょ」
プレグは魔法で、ニパは蹴りでムチャとトロンの周りにいるゴブリンを追い払った。
「早く!」
プレグが言うと、二人は城門に向かい駆け出した。
「行かせるか! 豪炎よ! 我が身に宿る恋心のように燃え上がり、眼前の敵を焼き尽くせ!」
城門の前に陣取るキーラが、正面から突っ込んでくる二人に巨大な火球を放った。しかし、その火球は斜め上から飛んできた火球とぶつかり爆散する。爆炎で一瞬視界を奪われたキーラの横を、いつの間にか火炎耐性の魔法を掛けた二人が駆け抜ける。
「待て!」
振り返ったキーラの眼前にズドンと氷の壁が現れた。
「あんたの相手は私よ」
「人間風情が……よくも」
キーラはギリギリと奥歯を噛み締めた。
プレグは城壁から飛び降り、ふわりと着地する。
「二度も死なせるわけにはいかないのよ」
プレグとキーラはバチバチと火花を散らした。
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