サキュバスパンデミック12
「お前、無事だったのか!」
見覚えのある魔人の背中には、ハリーノだけでなくエスペリアも乗っている。
「みんな、遅くなってゴメン!」
ここで少し時を遡る。
ハリーノとエスペリアが女子寮を出ようとした時、既に女子寮はサキュバス達に取り囲まれた後であった。二人は咄嗟に寮の中に駆け戻り、次々と突入してくるサキュバス達から逃げ回る。すると、何かを思いついたエスペリアが、ハリーノの手を引いて階段を駆け上がり始めた。
「エスペリア! どこに向かってるの!?」
「いいからついて来なさい!」
寮の最上階まで駆け上がったエスペリアは、素早く屋根裏への階段を下ろし、屋根裏部屋へと飛び込む。すると、屋根裏部屋の奥にはうっすらと輝く魔法陣が敷かれていた。そう、それはハリーノ達が長い道のりを踏破して辿り着いた、あの温泉へと通じる魔法陣だったのだ。二人は魔法陣を発動させ、温泉まで転移してサキュバス達から逃れた。
「た、助かった……」
「で、何が起こっているのか説明してくださらない?」
ハリーノは温泉の岩場に腰掛け、エスペリアに今学園で何が起こっているのかを話した。それはとても信じられるような話ではなかったが、あのサキュバスの群れを見てはエスペリアもハリーノの話を信じざるを得なかった。
「じゃあ、私はまたあなたに助けられたのね。昨日私はあんなにひどい事をあなたに言ったのに」
旧校舎に向かうはずだったが、咄嗟に女子寮に向かってしまったというハリーノの話を聞いて、エスペリアはハリーノにそう言った。
「ううん。助けられたのは僕の方さ、エスペリアが魔法陣を思い出してくれたおかげで逃げられたんだから。それに、昨日だって悪いのは僕の方だよ。エスペリアの気持ちも考えずに、勝手に盛り上がって、憧れたり持ち上げたりして。やっぱり僕はエスペリアにふさわしくないよね。ゴメン」
「だからなんであなたはそんな!!……もういいですわ」
俯くハリーノを見て、エスペリアもまた悲しげに俯いた。
それから二人は、これからどうするかを話し合う。
近くの町まで逃げて、王国軍にこの事を知らせるか。それとも下山して旧校舎に向かい、ムチャ達と合流するか。
ここから一番近くにあるフィーコーの町に最短距離で行くには、学園の敷地を真っ直ぐに横切らねばならない。あの数のサキュバス達に見つからずに学園を抜けるのはほぼ不可能であるし、飛行用の箒を持たぬ二人には、一旦敷地外に出てから町へと向かうのは、あまりにも時間がかかりすぎる。それまでムチャ達が無事とは限らない。
冷静に考えれば、時間をかけてでも王国軍を呼びに行く方が二人にとっても安全ではあるのだが、やはりムチャ達が心配な二人は下山して旧校舎に向かう事にした。幸い旧校舎は山の麓にある男子寮からも割と近い。男子寮にサキュバス達がいても、全力で走ればたどり着ける可能性はある。
二人は動き出そうと岩場から腰を上げる。
「あれ?」
すると、ハリーノは急激な目眩に襲われて、再び岩場に座り込む。
「ハリーノ? どうしましたの?」
エスペリアの声を聞きながら、ハリーノの意識が徐々にブラックアウトしていく。ハリーノは以前運動の授業でマラソンをしたときに、この感覚に襲われた事があった。
(確かこれは……)
ハリーノはそのまま意識を失った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます