サキュバスパンデミック11
「あそこだ!」
イメージハウリングブラストを駆使しながら時計塔の前までたどり着いたチャム達を待っていたのは、視界を埋めつくさんばかりのサキュバスの集団と、彼女達を束ねるように中央で腕を組んで飛んでいるベローバであった。
「おっほっほ、やっぱり来たわね。旧校舎からはうまく逃げたようだけれど、今度は逃がさないわよ」
完全にプリムラの傀儡にされたベローバからは、教頭だった頃の生徒を想う気持ちは微塵も感じられない。
「ヨチはどうした!?」
「さぁね、しばらく結界を保つように抵抗していたけど、魔力を使い果たして消えたんじゃないかしら」
それを聞いて、チャムの肌が泡立つ。いや、チャムだけではなく、トロス、そしてリャンソウとレオリーヌの心にも怒りの感情が宿った。ベローバに対してではない。ベローバを操るプリムラに対してだ。
「ちっくしょう! あのぷりぷり女を絶対に捕まえてやる。トロス、ハウリングブラストだ!」
「うん」
トロスがマイクとなる杖をスタンバイし、チャムは大きく息を吸う。しかし。
「ゲボッ!」
二人はここに来るまでに、次々と襲い来るサキュバス達を撃退するために何度もハウリングブラストを発動しており、酷使されたチャムの喉は限界を迎えようとしていた。薬を飲んだ直後は可愛らしい少女の声をしていたチャムも、今は酒灼けをしたような声に変わっている。
「くそっ! それなら、スーパームチャトロンを……」
「ダメ、魔力が足りない」
白兵戦となればムチャトロンはほぼ最強の技であるが、いかんせん燃費がべらぼうに悪く、ハウリングブラストを連発した後では、とてもじゃないが発動できない。
「どうすればいいんだ……」
すると、歯噛みする二人の前に、リャンソウとレオリーヌが進み出た。
「ムチャ、トロン。お前らは塔に向かえ」
「ここは私達が引き受ける」
「レオリ……レオ、リャンピン。お前らだけでどうにかなる数じゃねぇだろ!」
「それでも、道くらいは開けるさ」
リャンソウは超重リストバンドを外して放り投げ、レオリーヌはダガーをホルダーにしまい、短弓を構える。
「ムチャ、秘宝を探しに行った時に借りがあったよな」
「テキム学園との試合に勝てたのも、あなた達のおかげだったよね」
「コンパでも頑張ってくれたしよ」
「肝試しの時は大変だったけどね」
振り返り微笑む二人の顔は、疲労が色濃く浮かんでいるものの、その目は強い光を湛えていた。それを見て、チャムとトロスはコクリと頷く。
「行くぞ!!」
レオリーヌのかけ声と同時に、四人は駆け出した。
「行きなさい!」
ベローバの命令で、サキュバス達は一斉に四人に襲いかかる。そしてベローバ自身も大きく羽ばたいた。
サキュバス達が真正面から四人へと迫る。そんな中、四人の先頭に出たのはリャンソウだ。
「はぁぁぁぁぁぁぁあ!!!!」
リャンソウは両手に気を貯めて、走りながら腰だめに構える。そしてサキュバス達と接触する直前、目に見えぬ速さで凄まじい連撃を繰り出した。
「雀気流奥義! 国・士・無・双・拳!!!!」
リャンソウの拳から放たれた気の本流に巻き込まれ、サキュバス達はきりもみしながら吹き飛ばされた。チャム達の前方に、時計塔への道ができる。しかし奥にいたベローバは、リャンソウの気を受けながらもこちらに向かってきていた。すると今度は、短弓に矢をつがえたレオリーヌがリャンソウの前に飛び出す。
「風速三メートル、距離三十、二十、十……今だ!!!!」
レオリーヌは弓の弦から指を離す。
弓から放たれた矢は真っ直ぐに飛び、ベローバの左翼を射抜いた。ベローバはバランスを崩して僅かに右によろめく。そのすぐ脇を、チャムとトロスは全力で駆け抜けた。かに思えた。
ベローバはよろめきながらも腕を伸ばし、チャムが背に背負った剣の鞘を掴み、地面へと引き倒す。
「痛ぇ!!」
「ムチャ!」
動きの止まったチャム達に、体制を立て直したサキュバス達が再び襲いかかる。後は圧倒的物量差に取り押さえられてゲームセットを待つだけだ。本日二度目の絶体絶命。
しかし、彼等にはまだ仲間がいた。
「ヂューーーー!!!!」
トロスが咄嗟に召喚し、野球のフォームで投げたチュートロの棘が、チャムを押し倒したベローバの尻に突き刺さる。ベローバは絶叫してチャムを手放した。
「チュートロ! お前……」
チャムにはその時確かに、ベローバの尻に刺さったチュートロがニコリと笑ったように見えた。
だが、のんびりはしていられない。チャムは素早く立ち上がったが、既にサキュバス達に取り囲まれている。彼女達は、元は同じ学舎で学んだ仲間達だ。剣で斬り捨てる事はできない。ピンチはまだ脱していないのだ。
無数の手がチャムへと伸びる。
チャムの視界がサキュバス達の笑みと漆黒の翼で覆い尽くされた。次の瞬間。
ブォン!
どこからか巨大な腕が現れ、数体のサキュバスを鷲掴みにする。そちらを見ると、そこには巨大な魔人が宙に浮いていた。そして四人は突如飛来した魔人の背中から顔を出した人物に、驚きの声をあげる。
「「ハリーノ!!??」」
そう、魔人の背には、とうの昔に球にされたと思っていたハリーノが乗っていたのだ。
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