学園祭

 ベローバの許可をもらい、ムチャ達は大勢の人々で賑わう学園へと飛び出した。ムチャ達の出番は夕方からで、リハーサルも昨日のうちにしっかり済ませている。つまりそれまでは自由時間という事だ。


 お祭りムードにテンションの上がった二人は、広い学園内を走るように回る。心なしかカップルが多いような気がするのは、昨日のサキュバス騒動のせいか、はたまた学園祭の雰囲気のせいか。


 所々でサキュバスの仮装をしたセクシーな女子生徒達を見かけたが、それが本当に仮装かどうか確かめはしなかった。昨日プリムラと一緒に飛んでいったサキュバス達の中に見た顔もあった気がするが、おそらく気のせいであろう。


 ただでさえ学内で目立っていた二人は、昨日の事件で更に有名になっていた。愛の力でサキュバス達を撃退した勇者ハリーノの一味として。


 まぁ、プリムラが撤退したのは、ハリーノの公開告白と、皆がサキュバス達に立ち向かう姿を見ての事なので、あながち間違いではない。実際のところムチャとトロンは、今回はほぼ何もしていないのだ。あえて言うならば、ムチャがケセラをフッたくらいである。


 とにかく、ちょっとした有名人になった二人は色々な生徒達から声を掛けられ、色々な物を貰った。自由自在に動く風船や、テンションによって表情が変わるお面、色が変わるシャボン玉など、日常生活では何の役に立たないお祭りらしいグッズや、ハジける綿菓子、口の中で暴れるキャンディー、噛むとしばらくリアルな動物の声が出るガムなどの、普段では絶対買おうと思わぬ食べ物を貰い、二人はウキウキ気分で学園祭を楽しむ。


 そんな中、二人は中等部のグラウンドへとやってきた。そこにはフェアリーボールクラブが開いている屋台があり、店先ではリャンピンがソフトボール程のたこ焼きのような物を焼いていた。屋台の奥では数人の部員達が、一心不乱に何かを刻んでザルに入れている。

「リャンピン、それなんだ?」

「これ? フェアリーボールクラブ名物の、フェアリーボール焼きだよ」

 名物と言われても、そんなものは聞いた事が無い。

「これ、何が入ってるの?」

「中身? サー」


「「サー?」」


 フェアリーボール焼きというものも聞いた事が無いし、サーという食べ物も聞いた事が無い。しかし、リャンピンが焼きあがったソレにソースをかけると、何とも美味そうな匂いが漂ってくる。

「よかったら食べてみて」

 二人はリャンピンから焼きたてのフェアリーボール焼きを貰い、食べてみた。

「ん、うまい。これチーズとウズラの卵が入ってる」

「美味しい。私のはキノコとベーコンが入ってる」

「でしょ? 食堂の余った食材を適当に貰ってきて、刻んで入れただけなんだけど、案外美味しいんだよね」


 なるほど、リャンピンの言った「サー」とは「さぁ?」という意味だったのだ。


「なんでも適当に生地に入れて焼いて、うちの秘伝のソースかけたらなんとかなるんだよ」

 食材など関係ない。全てをソースで塗りつぶすという実にお祭りらしい大雑把な料理である。だが、色々な食感が味わえて案外美味であった。

「後で二人のステージ観に行くから、頑張ってね!」

 二人はフェアリーボール焼きを平らげ、リャンピンの屋台を離れた。

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