クリバー学園の怪談19

「ちょっと、あんな羊でどうする気ですの!?」


 エスペリアはハリーノのローブを掴み、ぐいぐいと揺さぶる。しかしハリーノは動じずに笑みを浮かべた。


「言ったでしょう。エリーは僕が守るって! 攻撃魔法や障壁は苦手でも、守る事なら……!!」


 ハリーノはエスペリアを背に庇ったまま、更に杖に魔力を込める。すると。


 ボムン


 羊の毛が一瞬にして何倍にも膨らみ、廊下を塞いだ。


「ムキャ!?」


 羊をすり抜けてハリーノ達に飛びかかろうとしたムキャは、突如現れた羊毛の壁に突っ込み、跳ね返される。召喚術の授業を受けたあの日から、ハリーノは密かに召喚獣を操る特訓をしていたのだ。愛するエスペリアに危機が迫った時、守る事ができるように。


「よーし、いいぞ! メリーノ」

「メリーノって……私と呼び方が被ってるじゃないの!!」


 ネーミングセンスはともかく、ハリーノはムキャの魔の手からエスペリアを守る事に成功した。

 それを見たトロンは思いつく。


「そうだ。すばしっこい動物には動物で対抗だね!」


 そして杖に魔力を込めて、頼もしき召喚獣を召喚する。トロンの杖から放たれた光は、小さなトゲトゲの球となって旧校舎の廊下に降臨した。そう、チュートロである。


「チュー!!」


 チュートロは鼻をヒクヒクさせながら、毛を逆立てる。そしてムキャと睨み合った。

 ムキャは宿主であるムチャが、以前チュートロに痛い目に遭わされているので、見た目が小さいとはいえ警戒して距離を取る。


「ムキャーッ!」

「チューッ!!」

「ムキャーッ!!!」

「チューチュー!!!!」

「ムキャキャーッ!!!!!」

「チューチューチュー!!!!!!」


 廊下にアニマル同士の威嚇の鳴き声が反響する。ハリネズミと猿。二匹が睨み合う様子は、それはそれは迫力が無かった。


「で、どうするの?」

 リャンピンは手に汗握り、杖を構えるトロンに問いかけた。トロンはムキャから視線を外さずに答える。


「うーん、どうしよう」

 トロンは勢いでチュートロを召喚したは良いが、その先を全く考えていなかったのだ。

 すると、チュートロを警戒しているムキャの背後に、突然ヨチが姿を現した。

「動きが止まればこっちのものよ」

 そして不意を突かれたムキャを羽交い締めにする。


「ムキャ!?」


 ヨチに羽交い締めにされて、ムキャはジタバタと暴れる。幽霊であるヨチは、本来ムチャに触れる事はできない。なので、ヨチはムチャに憑依したボッチ猿の魂を羽交い締めにしたのだ。


「今よ! 早く気絶させて!」


 ヨチの声を受けて、トロンとリャンピンは顔を見合わせて頷く、そして身動き取れなくなったムキャに向かって駆け出した。その目には、乙女の怒りが宿っている。


「あのー、一応言っておくけど、二人にイタズラしたのはボッチ猿のせいで彼のせいじゃないから程々にー……」


 気迫迫る表情で走ってくる二人に、ヨチは声をかけたが、どうやら二人には聞こえていないようだ。トロンは雷を纏った杖を、リャンピンは気を込めた拳を振り上げる。


「ム、ム、ムキャーッ!!!!???」


 次の瞬間、クリバー学園魔法学科の旧校舎には、ボッチ猿の断末魔が響き渡ったとさ。

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