クリバー学園の怪談18

「せやぁ!!」

「ムーチャー」


 リャンピンは素手で、トロンは杖でムキャへと襲いかかる。しかし二人がいくら攻めようとも、ムキャは猿のような人間離れした動きで軽々と二人の攻撃を躱してしまう。


「はわわわ……えらいことになっちゃったねぇ」

「うん、まさかムチャさんが猿になるなんて……」


 後輩二人組は三人が所狭しと暴れ回るので、巻き込まれぬように少し離れたところからその様子を見ていた。そんな二人の隣に、ヨチがスーッと現れる。


「あなたたちも、勝手に旧校舎に入ったりしたらダメよ」

「はぁぁ、す、すいません!」


 マリーナは隣に現れたヨチに頭を下げる。

 そして頭を下げた時、ヨチの足元が見えた。ヨチには足が無かった。


「ひ、ひ、ひ、ひあぁぁぁぁぁぁぁぁぁああああああああああああああああああ!!!!!!!!!おばきゃぁぁぁぁぁぁぁあああああ!!!!!!!」


 ヨチに足が無いことを確認したマリーナは、半魚人人生で最も大きな悲鳴をあげると、冷凍マグロのように硬直して気絶する。ただでさえ臆病なマリーナには、生幽霊のヨチの存在はあまりに刺激的だったようだ。直立したまま倒れそうになったマリーナを、ニパはひょいっと抱きとめる。


「マ、マリーナ? ねぇ、マリーナ!?」


 ニパがペチペチと頬を叩くが、マリーナはピクリとも動かない。


「オーバーな子ねぇ。それにしても、あの子は思った以上に厄介みたいね」


 乙女の純情を汚されて奮闘するトロンとリャンピンの方を見ると、二人は相変わらずいいようにムキャに翻弄されていた。

 あまりに攻撃が当たらずに、二人が手を休めると、ムキャは二人に尻を見せてペンペンと叩いた。お尻ペンペンは古来から伝わる挑発の王道であり、侮辱の最上級である。

 二人は額に青筋を浮かべ、先程よりも激しく攻撃を繰り出すが、やはりムキャには当たらない。猿の反射神経とムチャの身体能力の組み合わせは、まるで一流のジョッキーとサラブレッドのような相性であったのだ。


「むがーっ!! はーらーたーつー!!」


 リャンピンが地団駄で廊下の床を踏み抜こうとした時である。騒ぎを聞きつけたハリーノとエスペリアが廊下の反対側から走って来た。


「みんなここにいたんだ!」

「何事ですの!?」


 すると、二人を見たムキャの目の色が変わった。


「ムッキャーッ!!」


 ムキャはトロン達には目もくれず、ハリーノとエスペリアに向かって襲いかかった。どうやらボッチ猿の優先順位は、自らがメスと戯れるより、カップルへの嫉妬による攻撃衝動のようである。それはモテないわけだ。


「エリー! 危ない!」


 ムキャが駆けてくるのを見て、ハリーノはエスペリアの前に出た。そして杖を構える。


「我が心よ、獣となりて姿を現せ!!」


 ハリーノが唱えると、杖から強い光が放たれて、一匹の動物が召喚される。それは。


「メェー」


 モッコモコの羊であった。

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