クリバー学園の怪談17

「ボッチ猿」それは、生まれてから死ぬまで一度もメス猿にモテる事の無かった悲しき猿の事である。

 猿は死後に亡霊となり、カップルを妬み、メスを求め続けた。

「私は猿の亡霊を一本の望遠鏡に呪いとして封じ込めたの。もし彼がアレを覗いてしまったのなら、今彼の中にはボッチ猿の魂が乗り移っているわ! 今の彼はカップルを見ればその仲を引き裂こうとし、女の子を見れば発情して攫おうとする!」

 ヨチはどこか誇らしげに語ったが、全くもって傍迷惑な呪いを生み出してしまったものである。


「じゃあ、今のムチャはムチャじゃなくて…… 」

 トロンは静かに目を閉じ、クワッと見開いた。

「ムキャだね!」


「ムキャーッ!!!」


 ムチャ、もといムキャは、歯をむき出して吼えると、抱えていたマリーナを放り出してトロン達に向かって襲い掛かってきた。その動きは人間というよりは、まさしく獣の動きである。

「気をつけて!」

 リャンピンがトロンとヨチの前に進み出て身構える。

「はあっ!」

 勢いよく突き出されたリャンピンの掌底が、カウンター気味にムキャの胸を捉える。ムキャは吹っ飛ばされて廊下をゴロゴロと転がった。


「ご、ごめんムチャ君! ちょっと強くやりすぎたかも!」

 リャンピンは謝りながら、吹っ飛ばしたムキャに駆け寄ろうとした。

 しかし。

「ムッキャキャキャキャ」

 ムキャはカウンターでリャンピンの掌底を食らったのにも関わらず、ニマニマといやらしい笑みを浮かべながら平然と起き上がる。そして再びリャンピンへと襲い掛かった。

「ちょっと! 正気に戻って!」

 リャンピンは飛び掛かってきたムキャに蹴りを放つ。しかし、リャンピンの蹴りが捉えたのはムキャの残像であった。

「ウソ!?」

 蹴りを躱したムキャは、壁を蹴り、天井を蹴り、リャンピンの背後へと着地する。

「リャンピン先輩! 後ろ!」

 ニパが叫び、リャンピンが振り向こうとした時にはもう遅い。ムキャは背後からリャンピンに飛びつき、胸を鷲掴みにした。

「あ……きゃあぁぁぁぁぁぁあ!!」

 突如胸を揉みしだかれたリャンピンはパニックになり、ムキャを振りほどこうと拳を振り回す。しかしムキャはおぶさるようにリャンピンにしがみついており、拳はブンブンと空を切った。


「ねぇ、アレってどうやったら元に戻るの」

 トロンはリャンピンとムキャの取っ組み合いを見ながらヨチに尋ねる。

「確か……あの呪いは気絶させれば元に戻るはずよ」

「気絶ね。了解」

 トロンはそう言うと、リャンピンの背中にしがみつくムチャの頭に杖を振り下ろした。

「ムキャッ!?」

 それに気付いたムキャは、素早くリャンピンの背中から離れ、今度は地を這うようにトロンの背後へと回った。そして。


 ふにゅん


「!?」

 トロンの尻を指で突っついた。

 ムキャの指がトロンのお尻の肉にフニフニと沈む。

「ムキャキャ〜♪」

 ムキャはこれ以上は無いと言える程に鼻の下を伸ばし、トロンの尻の感触を楽しむ。

「ムーチャー……」

 トロンの体から、怒りの感情術の発動を表す赤いオーラが立ち上った。

「フン」

 トロンは怒りに任せてゴルフのスイングのように杖を思いっきり振ったが、ムキャはそれを軽々と躱して距離を取る。そしてこの上なくいやらしい顔でニンマリと笑った。


「リャンピン……」

「トロン……」

「「奴は女の敵だ!」」

 ムキャは二人の乙女の心に怒りの火をつけた。

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