三馬鹿と合同コンパ

「なぁ、お前らコンパってした事あるか?」


 ある日の夜、ムチャとレオとハリーノの三人が寮の自室でグダグダしていると、ナイフを磨いていたレオが突然そんな事を言い出した。

 本を読んでいたハリーノと、ネタを考えていたムチャは机から顔を上げて顔を見合わせると、ふるふると首を横に振る。

「コンパって、あのコンパの事?」

「男と女が一緒にお茶飲んだりして恋人探すやつだろ?」

 レオは「そうそう」と頷く。

「いやな、この前五組のホキムの奴に彼女ができたらしいんだよ」

「ホキム……あぁ、武術学科の棒術が上手いやつか」

 ムチャの脳裏に、棒を器用に振り回す坊主頭のホキムの姿が浮かぶ。ホキムは悪い奴では無いが、大人しめで、地味で、別段イケメンでも無く、恋愛に積極的なタイプには見えなかった。


「あいつに彼女かぁ……意外だなぁ」

「だろ? しかも彼女がまた可愛いんだよ。二組のペチカちゃんて子でさ」

「ペチカちゃん知ってるよ! 魔術学科の魔法薬専攻の子じゃ無いか! 実家が病院で、上品で、凄くかわいい子だよ! マジかぁ!!」

 ハリーノは彼女に密かに憧れていたのか、珍しく大きなリアクションをした。


「でもさ、何でその二人が付き合ったんだ? その二人に共通点無いだろ?」

 ムチャの疑問に、レオはズイッと身を乗り出す。

「そこなんだよ! お前ら八組のヘンリダって知ってるだろ?」

「知ってる。あのやたら顔が広くてうるさい新聞部の奴だよな」

「そう! 実はあいつに頼むとコンパをセッティングしてくれるらしくてな、それがきっかけであの二人が付き合うようになったらしいんだよ!」

 レオが次に何を言い出すのか、二人にはなんとなくわかった。


「俺達もセッティングして貰おう!」


 レオが口にしたその言葉は、ムチャとハリーノの予想通りであった。

「俺はパス」

「僕も」

 二人はアッサリ答えて机に視線を戻す。

「なんっっっでだよ! お前らこのまま灰色の青春を送りたいのか!?」

 レオはバンバンと机の天板を叩いた。

「だって、多分トロンに何か言われるし」

「僕はエスペリア様一筋だから」

 二人はそう答えたが、レオは諦めない。

「ムチャはハニーちゃんと付き合ってるわけじゃないだろ!? ハリーノも、密かにペチカちゃん狙ってたの知ってるぞ!」

「それはそうだけどさぁ……」

「ううっ……ペチカちゃん……」

 ムチャはどことなくソワソワしており、ハリーノの目には涙が溜まっていた。どうやら二人の意志はマシュマロの壁のようだ。レオは余裕で壊せる事を確信する。

「彼女できたら学園生活も楽しくなるぞぉ。毎日一緒に帰ったりしてさ、休みの日は湖までハイキングに行ったり、こっそり寮の部屋に忍び込んでお喋りしたりさ」

 ムチャとハリーノの頭上にモワモワと妄想の煙が立ち上った。その煙はピンク色で、思春期の男子の憧れがふんだんに詰まっていた。

「ハニーちゃんには内緒にしておいてやるし、はっきり言って、ハリーノが今のままエスペリアと付き合える確率はゼロだ! だが、一度彼女を作って女慣れすればもしかしたらワンチャンスあるかもしれないぞ!」

「いやぁ……僕は、その一度とか二度とかそういうの嫌なんだよなぁ。付き合うからにはその人を一生愛する覚悟というか何というか……」

 ハリーノはポツポツと自らの恋愛観を語り出す。それをレオは一刀両断に切り裂いた。


「お前は一生童貞だ!!」


 ズバーン!!!!


 ハリーノの頭上に雷が落ちた。ハリーノは勢い良くイスから立ち上がり、レオに抗議する。

「ななな、何でそんな事言うんだよ!?」

「いざという時の行動力もないクセに、そういう事言ってる奴は一生童貞って決まってるんだ! お前入学した頃からエスペリア様エスペリア様って言ってるけど、告白どころかメシに誘った事すら無いだろう!」

「それはタイミングってもんがあるだろ!?」

「何もしないくせに、そのタイミングってやつがいつ来るんだ!? そうやって一生童貞拗らせて人生終わるやつだって沢山いるんだぞ! どうしてもって言うなら、今から女子寮に行ってエスペリアをデートに誘ってこい!」

「あぁ、いいよ! やってやるよ! その代わり、レオはリャンピンを、ムチャはトロンさんをデートに誘えよな!」

 突然キラーパスを投げられたムチャは、思わずネタ帳にペンを突き刺してしまいそうになる。

「俺は関係ないだろう!?」

「あるよ! 一番身近なのに何もしてないのはムチャじゃないか!」

「何で俺がリャンピンを誘うんだよ!?」

「なんだかんだで仲良いじゃないか! 人にアレコレ言うんだからレオもそれくらいして貰うからね! じゃあ、女子寮に行ってくるから!」

 レオは上着を羽織り、ドアノブに手を掛けて部屋を出て行こうとする。ムチャとレオはゴクリと唾を飲んだ。

 しかし、ハリーノはそこでピタリと動きを止めた。

 そしてゆっくりと振り返り、爽やかにニコリと笑った。

「でも、人生経験として悪くないかもね」

 ムチャとレオはホッと胸を撫で下ろし、心からの笑みを浮かべる。

 こうして三馬鹿は、翌日ヘンリダに会いに新聞部の部室へと行ったのであった。

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