熱血!フェアリーボール!19

 試合終了後、フェアリーボールクラブの部室ではささやかな祝勝会が行われた。

「それでは、テキム学園への初勝利を祝って、かんぱーい!」

 リャンピンの音頭で選手達は皆高らかにグラスを掲げる。それからはもう飲めや食えやの乱痴気騒ぎであった。

 しかし、その場に作戦参謀一号と二号の姿はなかった。


「あの二人どこ行ったんでしょうね」

 マリーナは大きな水桶に肩まで浸かりながらリャンピンに問いかけたが、実はリャンピンもあの二人の行方は知らない。二人は試合終了後から急に姿を消してしまったのだ。

「うーん……どこ行ったのかしら……」

 リャンピンが部室内を見渡してもやはり二人の姿は見当たらない。


 すると、リャンピンは部室の窓の外から二対の目が部室の中を覗いていることに気付いた。リャンピンがそちらを見ると、二対の目は慌てて窓の下に引っ込む。

 リャンピンが部室を出て窓の方へ回ると、校庭の方にフードを被った二つの人影が逃げて行くのが見えた。

「もー、何なのよ」

 リャンピンはそれを走って追いかける。

 人影も走って逃げるが、リャンピンが全力で走ると、あっさりと捕まってしまった。


 リャンピンは二人のフードを剥ぎ取ると、それは当然ムチャとトロンであった。二人はどことなくバツの悪そうな顔をしている。

「もう! 何で逃げるの?」

 リャンピンが問うと、ムチャはポツリと呟く。

「だって、俺達の作戦は結局役に立たなかったから、なんか気まずくて」

 リャンピンは呆れたようにため息をついた。

「そんな事無いよ。あの作戦のおかげで前半を0点で抑えられたし、一軍まで引っ張りだせたんだから」

「でも……」

「それに、急にラフプレーが無くなったのも、みんなを治してくれたのも二人のおかげでしょう?」

 どうやらリャンピンには全てお見通しのようだ。

「いや、あれはフェアリーボールの妖精達が……」

「はいはい、わかったから行こう。みんな待ってるよ」

 リャンピンが二人の手を引いて部室に向かおうとすると、部室の方から部員達が駆けて来るのが見えた。最後尾には、水樽に入っていたためにびしょ濡れのマリーナもいる。


「「参謀ー!!」」

 駆けて来た部員達は二人の前にズラリと整列し、深々と礼をする。

「参謀! 今日まで色々とありがとうございました!」

「「ありがとうございました!」」

 皆があまりに深々と頭を下げるので、ムチャとトロンはたじろいだ。そして逃げようとする二人を部員達は見事な一体感で、素早く取り囲んだ。

「い、いや、俺達は別に何もしてないよ」

「みんなが頑張っただけ」


 リャンピンは首を横に振る。

「みんなも頑張ったけど、二人がはっきりと作戦と目標を定めてくれたから頑張れたんだよ。私の指示だけじゃ、がむしゃらに練習するくらいしかできなかったもの。だから逃げないで」

 ムチャとトロンは顔を見合わせ、恥ずかしそうに頷いた。


「あーあ、参謀達がウチのクラブに入ってくれたら良いのになぁ」

 部室に向かいながら、一人の部員が呟いた。

 ムチャとトロンも正直なところ、入ってしまいたい気分であったが、いつ旅立つかわからぬ身故に、そういうわけにもいかない。そこでムチャ達は新たな参謀を指名する事に決めた。

「じゃあ、俺達の代わりに、明日から参謀はお前だ! マリーナ!」

「へぁっ!?」

 突然指名されたマリーナは、驚いて肩をビクッと震わせる。


「な、何で私ですかぁ?」

「最後のリャンピンのシュートの時、皆リャンピンに全てを託そうとブロックに入ったけど、マリーナだけは万が一外した時の事を考えて、アタッカーでも無いのに相手フィールドに切り込んで行った。あの判断は中々できるもんじゃ無い。その大胆さと冷静さは次期参謀に相応しい!」

 ムチャの言葉に、部員達は次々と賛同した。

 そしてワラワラとマリーナに群がり、せーので担ぎ上げる。

「え? あ! ちょっと!」

「それじゃあ、次期参謀を胴上げだ!!」

 ムチャの合図で、部員達はマリーナを何度も高々と天に放り投げた。

「ひゃあー! 胴上げ怖いよぉ!!!」

 こうして、クリバー学園フェアリーボールクラブに、新たなるエースと次期参謀が生まれた。


 いずれ彼女がフェアリーボール界で、「ポセイドン・マリーナ」と呼ばれる選手となる事は、まだ誰も知らない。



フェアリーボール編・おわり

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