謎の男現る

「本日はコペン幻想劇団の公演「グリフォンと少年」にお越し頂き誠にありがとうございます! 我々は前座と前説をやらせていただくムチャと」

「トロンです」


 ムチャとトロンは劇場のステージに立っていた。客席には老若男女沢山の客で賑わっている。後から知った事なのだが、どうやらこの劇団は民衆の間では評判の劇団らしかった。


「いやー、お客さんがいっぱいですねトロンさん」

「そうですねムチャさん。今お芝居のオチを言っちゃったら何人くらい帰っちゃいますかね」

「ちょっと! そんな事したらお芝居がおしまいですよ」


 客のリアクションはいつも通りだった。


「えー……そうそう! お芝居中は飲食禁止なんですよね!」

「そうなんです。感動のシーンで隣の人がバリバリポテトをバリバリ食べていたら台無しですもんね」

「それは嫌ですねー!」

「だからお腹が空いた人がいたら餓死してください」

「ちょっと! そんなにお腹が空いてたらお芝居なんて観に来ないでしょ!」


 シーン……


「あ、あとはお喋りも禁止ですよね!」

「そうなんです。役者さんのセリフが聞こえないとお話がわからなくなりますからね」

「せっかく来たのにお話がわからないとつまらないですものねー」

「だからお喋りした人には消えてもらいます」

「さっきからトロンさん怖いですよ!」


 ついに客はパンフレットを読み始める。


「えー……ショートコントやります! ショートコント! エンシェ……」


 バサッと舞台の幕が閉まった。

(ちょっと!)

 舞台袖を見ると役者が手でバッテンを作り首を振っていた。

 ムチャとトロンはとぼとぼと舞台袖に引っ込んだ。


「いやー、逆にお客さんが静かになってよかったでし。よかったら客席の方に行ってお芝居観ていくでしよ」

 コペンの侮辱だか励ましだかわからない言葉を貰い、二人は劇場の外に出た。


「先にネタをやれば良かったな」

「だね」


 二人がしょぼくれていると、どこからかパチパチと拍手が聞こえて来た。

「やぁやぁ、まさかお二人がこんな所でステージに立っているとはね。滑ってましたけど」

 二人が声のした方を向くと、屋根の上に剣を背負った二枚目風の若い男が立っていた。

「あ、どうも」

「精進します……」

 二人がその場を去ろうとすると、男は屋根の上から飛び降りた。二人の前に着地した男はトロンに手を差し出す。


「おふざけはいらない。さぁ巫女様、寺院に帰りましょう」


 ムチャとトロンは顔を見合わせた。

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