寺院からの刺客
「あー、寺院の奴か。トロン知り合い?」
「知らない」
それを聞いて男は下唇を噛んだ。
「それはあんまりです巫女様、あなたの警護を申しつけられていた者の一人、ナップで御座います。名乗った事はございませんがこの二枚目顔に覚えがあるでしょう?」
「無い、それに巫女様って呼ばないで」
トロンはキッパリと言った。ナップと名乗る男は更に唇を噛み締めた。
「おのれ……巫女様が私の顔を覚えていない筈など無い。貴様巫女様を洗脳したな!?」
ナップはビシッとムチャを指差した。風圧が飛んで来そうな勢いで指を指されたので、ムチャは思わず避けてしまう。
「いや、してないよそんな事。なぁ?」
「されてないし巫女様って呼ばないで」
トロンは珍しく本気で嫌そうな顔をしている。
「ふん、私は問答をしに来たわけではないからな。単刀直入に言う。私が受けた指令は巫女様を連れ戻し、巫女様を連れ去った不届き者を始末する事。だがもし貴様がおとなしく巫女様をわたぶぁっ!!」
トロンの杖から水が迸りナップの顔面を叩いた。
「巫女様って……呼ばないでってば」
「うちの相方があんたとは組めないってよ。逃げるぞトロン」
二人は振り向きその場から逃げ出した。
ナップはそれを追いかける。
人通りの少ない路地裏を、逃げ足に自信のある二人は樽や箱などの障害物を器用に避けながら疾走する。それをぴったりと追ってくるナップも只者ではなかった。
「待て!」
ナップが叫ぶ。
「トロン、言ってみたかったセリフがあるんだ」
「どうぞ」
「待てと言われて待つ奴がいるか!」
ムチャはすっきりした顔をし、トロンはパチパチと小さな拍手をした。二人はどうやら余裕のようだ。
「おのれ、技を使うか……」
そう言うとナップは走りながら気を溜めた、ナップの脚から黄色いもやが立ち上る。
「喜の術……乱走!!」
するとナップ機動力が劇的に上がった。地を蹴り壁を走り、あっという間にムチャとトロンを追い越し二人の前に立ち塞がった。
「鬼ごっこは終わりのようだな」
ナップはそう言うとニヤリと笑った。
ムチャもニヤリと笑った。
「よし、一度言われてみたかったセリフ言われたぞ」
「やったね」
ムチャはガッツポーズをし、トロンはまたパチパチと小さな拍手をした。
「ふざけるのも今のうちだ。貴様、確かムチャとか言ったな。貴様の始末も指令のうちだが、おとなしく巫女様を渡せば同門のよしみで見逃してやってもいいぞ」
ナップはまたビシッとムチャを指差した。
「同門って言っても俺は寺院で学んだわけじゃないからなぁ。それに相方がいなくなると困るんだよ。芸人として」
「そうか……ならば貴様は斬る」
ナップがスラリと剣を抜く。
ムチャもそれに合わせて剣を抜いた。
「哀剣……」
ナップが中段に剣を構える。
「楽剣……」
一方ムチャは剣を鞘に収め腰を低く落とした。
ピリピリとした空気が張り詰め、二人の体からそれぞれ青と緑のもやが立ち上り始める。
そして次の瞬間、閃光……を放ったのはトロンの杖だった。
「ぎゃああああああ!!」
トロンの雷がナップの体中を駆け巡る。
トロンはしばらく雷を放ち続け、気がつくとナップは気絶していた。
「ムチャは技使うとおかしくなるからあんまり使わないで」
「ん、悪い」
ムチャとトロンは気絶しているナップをそこら辺に落ちている布でぐるぐる巻きにすると、路地裏から大通りまで運び出した。そして一台の荷馬車を見つけると、
「せーの」
とナップのぐるぐる巻き雷仕立てを放り込む。
馬車には「王都行き」と書いてあった。
「これで良し」
「ムチャ、お腹すいた」
「だな、飯食いに行くか」
馬車はナップを乗せたままバカラバカラと王都に向かい走って行った。
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