食堂にて

 ガツガツガツガツ


 ムチャとトロンの二人は、町の食堂のテーブルで特盛スパゲティを胃に詰め込んでいた。この町の名産はトマトらしく、スパゲティに絡んだソースにはトマトがたっぷりと使われていた。


「まさか寺院の奴がこんな所まで追ってくるとは思わなかったな」

 ムチャは口の周りをトマトソースでべちゃべちゃにしながら言った。

「この前新聞に載っちゃったからかも」

 トロンも口の周りをトマトソースでべちゃべちゃにしながら言った。

「どうする?さっさとこの町を出てよそに行くか?」

「でも劇団の前座もあるし」

 二人はぐいっと口周りを拭う。


「そうでし、今出ていかれると困るでし」


 突然どこからかコペンの声が聞こえた。

「コペン!? どこだ?」

「ムチャ、肩」

 いつの間にかムチャの肩にはコペンがしがみついている。

 気がつくと二人の周りの席では劇団員達が食事をしていた。

「たまたまお二人がここで食事をしていて良かったでしよ。実はお二人にお話があるでし」

 コペンはムチャの肩から飛び降りると、テーブルの上に着地した。

「話って何の?」

「話って言うかお願いでし」

「「お願い?」」

 二人は声を合わせて言った。

「芝居の役者が今日の公演で怪我をしてしまったでし、だから代役を頼みたいんでし」

 コペンは二人に向かって小さな手を合わせる。

「芝居の代役かよ。オレ達は芸人だぞ」

「芸人にだって演技力は必要でし。それに今日の二人を見て舞台度胸があることがわかったでし。あんなに滑っても大丈夫なのは鋼の心臓があるからでし」

 酷い言われようだが否定できないのが悔しかった。

「で、どんな役なんだよ」

 ムチャはとりあえず聞いてみた。

「ちょい役だから安心するでし。それにお二人なら簡単でし、恋人同士の役でし」


 ムチャとトロンは渋〜い顔をした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る