二人の代役
「あれは……グリフォンだわ。少年がグリフォンに乗って飛んで行く……」
トロンは潤んだ瞳で天を仰いだ。その瞳には叶わぬ恋をしている乙女の悲しみがうつしだされている。そして視線を右から左へとゆっくりと動かす。上空に伸ばした指は細やかに動き、まるで視線の先に本当にグリフォンが飛んでいるかのようだった。
「アア、グリフォンダ、ボクタチモ、カレラノヨウニ、ドコカトオクヘ、イッテシマオウカ」
ムチャは、もうなんというか、酷かった。
「ちょっと台本貸すでし」
コペンは付き人に台本をめくらせると同じ所を何度も読み返した。
「うん、魔道人形役とはどこにも書いてないでし」
コペンは小さな手で台本をバンバンと叩く。
「どうなっているでしか! トロンは王立劇場でやっても恥ずかしくない芝居をしてるのに、何でムチャは村祭りのお芝居に出てる子供より酷いでしか!」
ムチャははっと我に返った。
「だって仕方ないじゃねぇか! グリフォン飛んでないんだから!」
「それでどうやって今までお笑いやってきたんでしか!!」
ムチャはふと考える。
「どうやって?」
そしてトロンを見る。
「どうやってだ?」
トロンは首をかしげた。
「さぁ……?」
その様子を見てコペンは台本に何かをサラサラと書き出した。
「ちょっとこれでやってみるでし」
二人が台本を見ると、文章が大きく書き換えられていた。
「じゃあさっさと同じ所から……スタート!」
「わぁ、グリフォンだ、グリフォンが子供を乗せて飛んでいくよ」
「本当だ、どこ行くんだろうね」
「きっと市場に売りに行くんだよ。グリフォンを」
「帰りどうするんだよ!」
「歩いて帰るんだよ。グリフォンの唐揚げ食べながら」
「グリフォンて食用なの!?」
「何でコントならできるでしか!!!!」
コペンは小さな手が腫れる程台本を叩いた。
「だって芸人だもの。なぁ」
「うん」
「あの鋼の心臓を持っていながら芝居はできないなんて勿体無いでし……」
コペンはとほほと肩を落とした。
「コペン、ムチャは私が明日のお芝居までになんとかするから」
コペンはチラリとトロンを見る。
「本当でしか? もしなんとかならなかったらあのシーンはコントバージョンでいくでしよ」
劇団員達がザワザワしだした。
「大丈夫。ムチャはやればできる子だから」
ムチャはよりによってトロンに子供扱いされた事に憤りを覚えたが、さっきのトロンの演技を見ていたので何も言えなかった。
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