ライブの日12
ズドォン!
轟音が地面を揺らし、イルマが先程まで浮いていた場所には深々と戦斧の刃が突き刺さっている。
「ちっ! 惜しい!」
斧の柄を握っているのは、あのゴドラであった。
「誰だ!?」
驚くイルマの側面から、今度は何者かが凄まじい勢いでタックルをぶちかます。
「ぐぁ!!」
細身のイルマは不意打ちでタックルをくらい、十メートル近くの距離を飛ばされた。
「ドクタータックル! 私はマッスル! さぁ、処方箋はいるかね!? 」
イルマにタックルをかましたのは、なぜか素肌に白衣を羽織ったソドルであった。
「ムチャ君、大丈夫かね?」
ソドルは真っ白な歯と、ムキムキな上腕二頭筋を見せてムチャに微笑みかける。
「遅くなったな、ムチャ」
ゴドラも微笑み、地面から戦斧を引き抜いた。
「おう! 二人ともありがとう。危機一髪だったけどな」
ムチャはゴドラとハイタッチを交わす。
「いたたた……君達誰だよ……」
イルマは土を払いながら立ち上がろうとした。
そこに、先程のソドルのタックルよりも凄まじい速度で、何者かのドロップキックが飛んできた。
「うわぁ!」
イルマがそれを間一髪で躱すと、躱した方向から今度は次々と氷の刃が飛んでくる。
「ひいぃぃ!!」
イルマは咄嗟に魔法で障壁を張り、氷の刃を防いだ。
「ムチャさん、トロンさん、お待たせ!」
「あんた達、ほんとトラブルに好かれるのね」
ドロップキックを放ったのは半獣化したニパで、魔法で氷の刃を飛ばしたのはプレグであった。
「色々すまん!」
「ごめんなさいのサイコロはろくめん」
ムチャとトロンはプレグとニパに頭を下げる。すると今度は、どこからか不気味な笑い声が聞こえてきた。
「ケーッケケケェ! 俺達もいるぜ!」
「パージ! からのアタック!」
障壁を貼るイルマに、バラバラになった人形の手足が次々と襲い掛かる。 襲いくる人形の手足は異常な程に硬く、重く、その連続攻撃を受けたイルマの障壁にヒビが入る。
ムチャとトロンが人形の手足が飛んできた方を見ると、そこにはポロロが立っていた。
「コネクト!」
ポロロが両手を複雑に動かすと、バラバラになっていたギャロの体が一瞬のうちに組み上がる。ギャロの手には以前二人と戦った時には付いていなかった刃の爪が付けられている。
「ポロロ達も来てくれたのか!」
「あのナップって人から聞いたよ。二人とも色々大変だったみたいだね」
「こいつが助けに行くなら俺も行くしかねぇからな」
月光に照らされたギャロの爪がギラリと輝いた。
「次から次へと一体なんなんだ!?」
四方八方から様々な攻撃を受け、イルマの脳内は大混乱であった。するとイルマの目に、百メートル程離れた所に建っている時計塔の上で魔力の光が大きく輝いたのが見えた。
「なっ!?」
ズガァァァァァァァアン!!!!!
次の瞬間、超高密度の雷の束が高速で飛来し、イルマの障壁へと激突する。
「ぐあぁぁぁぁあ!!」
雷の束は障壁を木っ端微塵に破壊し、イルマはまたしても吹っ飛ばされた。
「あれは……」
「イワナさんの魔法」
時計塔を見上げているムチャとトロンのすぐ横を、何者かが素早く駆け抜けた。それは例えるならば赤い旋風のようであった。
「じゃあ、今のは?」
「カリンさんだ」
カリンは吹き飛ばされたイルマの頭上へと跳躍し、手にした槍の先端を下方に向ける。月を背にした彼女の姿は、イルマにはまるで魔獣のように見えた。
「怒の槍……
カリンは怒の感情術を槍に込め、全力で下方にいるイルマへと投げつける。槍は目に見えぬ速さで飛び、イルマの腹を貫く。そして地面深くまで突き刺さり爆裂した。
チュドォォォォォォオン!!
「「うわぁぁぁぁああああああああ!!??」」
その爆発はあまりにも大きく、嫌な予感を感じてイルマから離れていた一同まで吹き飛ばす。
そしてカリンはスタッとカッコよく地面に着地した。
「ちょっとあんた! 加減をしなさいよ加減を!」
「ごめんごめん! ちょっと滾っちゃって」
土で顔を黒くしたプレグが怒鳴ると、カリンは周りですっ転がっている一同に手を合わせる。その隣に杖で飛んできたイワナが着地した。
プレグとニパ、そしてかつてムチャとトロンと戦ったアレルの戦士達が、この場に駆けつけたのだ。
すると、皆の上空から声が聞こえた。
「な……ぜ……だ……」
皆が上空を見ると、カリンの槍に貫かれ、腹に大きな穴を開けたイルマが全身から血を流しながら宙に浮いている。
明らかに死んでいてもおかしくない傷を負いながらも生きているイルマを見て一同はギョッとしたが、すぐに立ち直り身構える。
「仲間を呼んだ……様子もなかったのに……これほどの……戦士達が……何でこんな所に……集まってきたんだ……」
ムチャとトロンは今度は二人で一歩前に進み出た。
「言っただろ? 「俺達が」止めるって。これが俺達の切り札だ!」
ムチャとトロンは胸元から小さな筒状のネックレスを取り出す。イルマが辺りを見渡すと、その場にいる全員が、二人が付けているものと同じネックレスを胸元に下げていた。
それはあの日、胡散臭い黒づくめの商人からぼったくりパンの代金の代わりに巻き上げたネックレスであった。
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