ライブの日11
「ぐぁっ!!」
ムチャとイルマの戦闘が始まって十分程が過ぎていた。ムチャはカッコつけて戦い始めたのは良いが、イルマが次々と繰り出す闇の魔法の集中放火を受け、イルマに傷一つつけられぬままボコボコのボッコボコにされていた。しかし、ムチャの目にはまだ闘志が燃えている。
「ムチャ!」
地面に転がったムチャにトロンが駆け寄ろうとすると、ムチャは手のひらでそれを制する。
「下がってろ。トロンがここで倒れちまったらライブができなくなるだろ」
そして剣を杖代わりにしてヨロヨロと立ち上がった。
「君はあれだね、口だけだね」
イルマは魔力によって一メートル程宙に浮いており、残念そうな表情を浮かべてムチャとトロンを見下ろしている。
「とてもブレイクシア君を倒したとは思えないよ。まぁ、別にいいんだけどさ」
イルマの周囲に渦巻く魔力が球形に集まり、ムチャに向かって飛ぶ。ムチャがそれを横っ跳びで躱すと、魔力の球は地面にぶつかり、まるで大砲の直撃のように地面を捲りあげた。
「ぶぁっ!」
側面から爆発の衝撃を受け、ムチャは再び地面に転がされる。
「でもここまで弱いと拍子抜けちゃうなぁ……ほら、ウイルス撒いちゃうよ」
イルマは白衣のポケットから例のビンを取り出し、挑発的にフリフリと振ってみせた。
「待て待て焦るなよ。俺達にはまだ切り札があるんだぜ!」
ムチャが起き上がりながら言うと、イルマは「切り札」という単語に反応してニヤリと笑う。
「切り札か、それは古の聖火竜かな?」
「げっ! 知ってるのか!?」
「まぁね、君達とブレイクシア君の戦いは見ていたから」
イルマの側に、ピンポン球サイズの目玉がギョロギョロと現れた。魔物のようにも見えるが、どうやら千里眼の魔法の一種らしい。
「てめぇ、エンシェホを召喚したらお前なんかけちょんけちょんなんだからな!」
「僕も正直あれに対処できるかは不安なんだよね。でも君達は召喚できない」
「何でだよ」
「だって、あんな奴をここで暴れさせたら、街の人達がいっぱい死んじゃうよ? 君達あれを制御できないんだろ。前の勇者と違ってさ」
ムチャとトロンは顔を見合わせた。
「……確かに」
二人はそこまで考えていなかったのだ。
「さて、切り札が捨て札になったところで、トドメを刺させて貰おうかな」
イルマの周囲に渦巻く魔力がイルマの前方に集まり始める。そして先程とは比べ物にならない程の大きな黒い球になった。球の直撃を受ければ、いや、球が地面に激突しただけでムチャは跡形もなく消し飛んでしまうであろう。球にはそれ程の魔力が込められていた。
ムチャは先程からの戦闘でもうあまり体力は残っていない。魔力の少ないトロンが障壁を張っても防ぐことはできないであろう。
状況は絶望的であった。
「さようなら。何か言い残すことはあるかい」
イルマが言うと、ムチャが口を開いた。
「ある」
それを聞いて、イルマはめんどくさげに言った。
「じゃあ、どうぞ」
今度はムチャがニヤリと笑った。
「誰が聖火竜が切り札だって言った?」
その時、イルマは背後に危険を察知し身を躱した。
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