ライブの日10
「俺は魔王軍がどうこうとか興味ないけどさ、お前がそのウイルスだか何だかをこの街に撒くなら俺達はそれを止める」
ムチャは剣を抜き、トロンは杖を構えた。
それを見てもイルマは表情を変えずに笑顔を浮かべている。
「うん、そう言うと思ったよ。でもいいのかな? そっちの彼女は何だか疲れてるみたいだし、僕は喧嘩は嫌いだって言ったけど、そこそこ腕に覚えがあるよ」
イルマの周りにドス黒い魔力が渦巻き始める。
その魔力は膨大で、ムチャとトロンの背に再び悪寒が走った。
しかし、ムチャは渦巻く魔力に気圧されそうになりながらも一歩前に踏み出す。
「トロン」
ムチャに名を呼ばれ、トロンは頷き、数歩後ろに下がった。
「俺が相手になる」
ムチャは剣先をピタリとイルマの顔に向けた。
イルマは一瞬驚きの表情を浮かべ、先ほどから張り付いていた笑い顔を崩し、今度は本当に面白そうに笑った。
「かぁっこいいー!! 君はお姫さまを守るナイト? それとも勇者?」
「違う」
ムチャの体から怒の感情術の発動を意味する赤いオーラが立ち上る。
「お笑い芸人だ」
ムチャとイルマの戦いが始まった。
「ちょっと! あいつらまだ見つからないの!?」
闘技場の舞台袖では、既に一時間という長すぎる前座を終えたプレグが喚いていた。ニパは落ち着きがなく舞台袖をウロウロと歩き回っている。
現在ステージ上ではポロロとギャロが人形劇を繰り広げているが、あまりに長い主役不在のステージに不満を覚えた観客達が「芸人コンビを出せ!」とブーイングを投げかけ、徐々に帰り始めている客までいる。
「どうしましょう!! チケット代の返金……お客の信頼……私はクビ……あああああ!!!!」
ガリガリと爪を噛み続けるマニラは、この数時間のストレスでドッと老け込み、心なしか顔のシワと白髪が増えたように見える。
そこに、ムチャを先ほど病院まで送り届けたナップが飛び込んできた。その隣にはナップと待ち合わせをしていた闘技場の入り口で待ちぼうけを食らっていたフロナディアもいる。
「間に合っ……てはいないか!!」
「「ナップ!?」」
一同は予想外の人物の登場に驚いた。
ナップはムチャとトロンが遅刻している理由と、もうすぐ二人が闘技場に到着する旨をその場にいる皆に説明した。
「それは仕方な……くはないけど!! もう! あいつらバカよ! バカコンビね!」
「あの二人らしいねぇ。私、迎えに行ってくる!」
ニパは衣装を脱ぎ捨て、勢い良くその場から駆け出そうとした。
その時である。
ピョロロロ〜ピョロピロ〜
ニパの耳に間の抜けた珍妙な笛の音がどこか遠くから聞こえた。ニパはハッとしてプレグの顔を見る。
「プレグ、聞こえた?」
プレグは険しい表情をして頷く。
「聞こえたって、何が聞こえたんだ?」
ナップが何やらただならぬ表情を浮かべているニパとプレグの顔を交互に見比べていると、先程まで舞台上にいたポロロとギャロが舞台袖まで駆けてきた。
「今の音!!」
プレグとニパ、ポロロとギャロは顔を見合わせると。そして互いに頷くと闘技場の外へ向かって駆け出した。
「ちょっと! あんた達までどこに行くのよ!! カムバーーーーック!!」
走り去る三人と一体の背を、マニラは涙と鼻水を垂れ流しながら見送る。
「今日はいったいどうなってるのよ……誰か、誰かあの子達が来るまでステージを繋いでちょうだい……」
マニラはヨヨヨとその場に崩れ落ちる。そんなマニラに手を差し伸べる者がいた。
「あなた……」
それは四人に置いてきぼりにされたナップとフロナディアであった。
「場を……繋げば良いのですね」
マニラに手を差し伸べたナップはキリッとした顔で言った。しかし、その額には滝のような汗をかいている。
「繋げますの?」
ナップの背後に立つフロナディアが心配そうな表情を浮かべて問いかけると、ナップは覚悟を決めた顔で頷いた。
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