ライブの日13

 ケセラが警告をしに来た日の翌日、ムチャとトロンは街にいる衛兵や役所にこの街に危険が迫っていることを話した。しかし、友達のサキュバスに聞いた話だと言うと、「それこそ夢でも見たんだろう」と、誰も二人の話を信じてくれず、二人は途方に暮れた。二人はブレイクシアを倒した時に多少面倒でも自分達が倒したとちゃんと名乗り出ておけば良かったと後悔する。そうしていれば皆二人の話を信じてくれていただろう。

 そして二人は、何か起こった時にはブレイクシアの時のようにできる限り自分達でなんとかしようと決めたのだ。それは別に迫り来る危険から街を救おうという高尚な考えではなく、ただ円滑にライブをしたいという実に私的な考えであった。二人にとって街を救うのはそのついでである。

 二人は闘技場で試合をする度に、ケセラのしてくれた警告の話を対戦相手に話した。二人と試合をした人々は、二人の話を信じてくれた。

 そして二人はその後、彼等に詐欺商人から巻き上げた小さな筒状のキーホルダーをネックレスに加工したものを手渡して回った。あの怪しい商人はそのキーホルダーを子供のオモチャだと言っていたが、それは友呼びの笛という立派な魔法の道具である。


「どんなオモチャなの?」

 あの日トロンは商人に聞いた。

「これ、ただの小さな筒に見えるけど、実は笛になってるんだよ。ちょいとこれを持ってな」

 商人はトロンに沢山ある笛の一つを手渡す。そして自らも笛を手に取り、口に咥えて吹くと。


 ピョロロロ〜♪


 トロンの耳に何やら珍妙な笛の音が聞こえた。

「変な音」

 トロンが言うと、ムチャは不思議そうな顔をする。

「音? 何も聞こえないけど」

 それを聞いてトロンも不思議そうな顔をした。

「これはこの笛を持っている人にしか聞こえない音が出るんだ。持っている人にしか聞こえないけど、持っていれば何十キロか離れていても音が聞こえる。あと笛を吹いた人がどっちの方角にいるのかもだいたいわかるよ。多分迷子になりそうな子供に持たせる道具だろうね」

 もしケセラの言っていた『ヤバい奴』がブレイクシア並みの強さを持っていた時、二人がそいつを倒せるとは限らない。迅速に対処できずに街に被害が出るかもしれない。だから二人は商人からその笛を巻き上げて皆に配った。何かあった時は皆で一丸になりそいつを倒そうと。

 トロンは、ムチャが一人で時間を稼いでいる間、皆に場所と方向を知らせるために手で口元を隠して笛を吹き続けていたのだ。


 笛の音の導きにより、彼等はこの場に駆けつけてくれた。


 今この場には、かつて二人の敵だった者たちが友として集ったのだ。彼等は皆強敵であった。だからこそ頼もしく、心強い。


 ただ、かつて闘技場で戦った中でこの場来ていない二人がいる。そう、ナップとフロナディアだ。笛は十個セットで、彼等に配る笛が無かったのだ。

 しかし、彼等も今、最も厳しい戦場で立派に戦っていた。

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