ライブの日14
その頃闘技場では、ナップと、そしてなぜかフロナディアが客を引き止めるために即興で漫才を披露していた。
「いやー、フロナディア様、熱気で喉が乾いてしまいますね」
「ではお水を用意しますわ。爺や、ちょっとそこの湖を買い占めてきて」
「そんなに飲めませんよ!」
「あと紅茶畑も」
「沸かすんですか!?」
「戸棚にクッキーがあったわね」
「ティータイムですか!?」
「え? おかきしかない?」
「そこは庶民的なんですね!」
「じゃあ、パンの耳を揚げてちょうだい」
「めちゃくちゃ庶民じゃないですか! 水だけでいいんですよ!」
「手ですくって来ましたわ」
「コップは下さいよ!」
「でも水だけでいいって」
「頭が固い!」
二人が漫才をしている間にも、観客達の数は凄い勢いで減り続けている。
(地獄だ……早くしてくれ……)
ナップは額から滝のような汗を掻きながら漫才を続ける。もう時間はあまり残っていなかった。
「さぁ、どうするよ」
ムチャとトロン、そしてその仲間達はジリジリとイルマと距離を詰める。するとイルマは、諦めたように深くため息をつき、あの張り付いたような笑顔を浮かべた。
「わかったわかった。今日のところは帰るよ。言ったろ。喧嘩は嫌いだって」
「お前なぁ、俺たちのライブを邪魔しといて無事に帰れると思ってるのか?」
「おぉ、怖い。じゃあ、こうしたらどうかな?」
イルマはポケットから例のビンを取り出し、皆に見せつける。
「ほーら、このビンを僕が開けたら大変な事になっちゃうよ」
「なっ! やめろバカ!」
「何よ、あんなビンがなんだって言うの?」
ビンの正体を知らないプレグが手に魔力を込めた。それをムチャが慌てて止める。
「待て待て待て待て!! あれはヤバいビンなんだって!」
二人のやりとりを見て、イルマは満足げに頷く。
「じゃあ、僕は帰るけど、これを開けて欲しく無かったらそのままそこで大人しくしとくんだね」
イルマがそう言うと、イルマの背後に黒い魔力が集まり、暗黒の空間がぽっかりと口を開けた。
「よしよし、「待て」だよワンちゃん達」
イルマの体がズブズブと闇の空間に呑み込まれてゆく。暗黒空間に呑み込まれながら、イルマは言った。
「それにしても、今日はなんだか懐かしい匂いがしたね。じゃあ、バイバイ」
そう言い残し、イルマの体は完全に闇へと消える。
そして暗黒空間は徐々に小さくなり、そのまま消えるかと思われた。
しかし、暗黒空間が完全に閉じる瞬間、中からイルマの手がニュッと出てきて、何かを放り投げた。
宙を舞うそれは、先程イルマが持っていた例のビンである。
「「えぇぇぇぇぇぇえ!!??」」
一同は宙を舞うビンに向かって駆け出した。
ビンの蓋は開いてはいない。しかしビンが地面に落ちれば、割れて中のウイルスが溢れ出すだろう。それはイルマの最後っ屁であった。
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