ライブの日15
ビンは固い石畳の地面に向かって飛んで行く。小さなビンとはいえ、投げられた高さと速さからして落ちればほぼ間違いなく割れるであろう。
皆が上空のビンを見上げながら落下予測地点に向けて一斉に駆け出したため、周りの様子が目に入らずに、お互いに激しくぶつかり合う。
ここからはスローモーションでお送りします。
プレグはニパに思いっきり足を踏まれ絶叫し、ゴドラはソドルと頭をぶつけて目に星を散らす。イワナはカリンに吹っ飛ばされて、ギャロにビンをキャッチさせようとしていたポロロにぶつかった。
結局まともに走り出せたのはムチャとトロンだけである。
ムチャは助走をつけると、ゴドラを踏み台にして跳躍する。そしてビンに腕を伸ばすが、僅かに届かずにビンはムチャの指先に弾かれる。だが、ビンは上方に弾かれたために僅かに落下までの猶予ができた。その隙にトロンはビンの落下予測地点に到着した。
「おーらーい」
トロンはピッチャーフライの要領で手を上空に掲げる。幸い落下してくるビンの真後ろには月が出ていて、夜の闇の中でもビンを見失う事は無さそうだ。
その時である。アレルの街に一陣の風が吹いた。
風は地を這うように流れ、上空へと舞い上がる。
そして昇龍の如くトロンのローブを捲り上げた。
「「あっ……」」
その場にいた全員の目に、月明かりに照らされた白い布が映った。
トロンは反射的に、ローブを手で押さえる。
「あ、バカ!」
ビンはもうトロンの頭上数センチに迫っていた。
一瞬の静寂が訪れる。
ここでスローモーションを解除しよう。
「あれ? ビンは?」
ビンが落ちた音も、割れた音もしなかったので、一同はキョロキョロと辺りを見渡した。もしかしたら奇跡的に割れなかったのかもしれない。
「ふんふーふ、もんも」
地面をハイハイしながらビンを探す一同に声をかけ、トロンは自分の顔を指差した。
そう、風のイタズラで両手が塞がれたトロンは口でビンをキャッチしたのだ。
「ナイストロン!」
トロンは口をモゴモゴすると、自分の手のひらにペッとビンを吐き出した。
「いやーよかったよかった」
皆はホッとして、トロンの手のひらに吐き出された二つの物体を見る。
二つ。
ビンと、コルクの栓だ。
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