ライブの日16

「うわぁぁぁぁあ!?」

 ビンの栓が開いているのを見たムチャは悲鳴をあげた。そして意味がないと理解していながらも慌ててビンに栓をする。

「トロン! 中身は!?」

「……飲んだ、かも」


 ケプッ


 そう言ってトロンは小さなゲップをした。

「飲んだ!?」

 ムチャはその場にヘナヘナと崩れ落ちる。そしてさめざめと泣きだした。

「あぁ……トロンが死んじまう!! ソドル! あんた医者だろ!? なんとかしてくれよ!」

 ムチャは涙を流しながらソドルの白衣にしがみついた。

「いや、そう言われても……」

 ソドルがトロンを見ると、トロンは口をモゴモゴと動かし、コルクの破片をペッペと吐き出していた。

「ちょっと失礼」

 ソドルはトロンの手を取り、脈を調べる。そして額に手を当てて魔力を込めた。

「いや、何ともないようだ」

「はへ?」

 ムチャもトロンをまじまじと見たが、トロンは平然とした顔をしている。

「中身は最初から空だったんじゃないか?」

「あの野郎! バカにしやがって!!」

「うーん、でも確かに何か飲んだような」

 そう言いつつもトロンの体には何も異変は起きない。

「まぁ、とりあえず大丈夫みたいだ」

「本当に?」

「あぁ、彼女には全くもって異常が見られない」

 ソドルの言葉を聞いたムチャの涙が止まり、ムチャはホッと胸を撫で下ろした。

「じゃあ、これで一件落着というわけか」


 こうして、アレルの街はムチャとトロン、そして闘技場の戦士達によって新生魔王軍の一角、嫉妬のイルマの魔の手から守られたのだ。

 それは月の綺麗な夜の出来事であった。

 戦士達は月を見上げた。またいずれ危機が迫った時、自分達がこの街を守ると誓うかのように。


 ムチャとトロンの冒険譚・第二章〜完〜




















「いやいやいやいやいやいや!!!!」


 和んでいるところで急に騒ぎだしたプレグを、皆は珍獣を見るような目で見た。

「ラ・イ・ブ!!!!」

 その一言で、全てが終わった気になっていた一同はハッとする。

「「そうだった!!!!」」

 ムチャとトロンは闘技場に向かって駆け出した。後ろからは仲間達もついてくる。

「ったく忙しい日だなホントに!!」

「だよねぇ」

「喋ってないで走りなさいよ!」

「疲れてたら私がおんぶしようか!?」

「これで間に合わなかったら面目立たないな!!」

「トロンくん。心配だから一応明日うちの病院で診察を受けたまえ」

「誰か場を繋いでいるのかなぁ」

「ケケケ、そんな奴いねぇだろ」

「キビキビ走りな! コランも待ってるよ!」

「マニラはちゃんとコランを見ててくれているかな?」

 一同はゴチャゴチャと喋りながら闘技場を目指してアレルの街を駆け抜けた。

 そして、街の中心に建つ闘技場へと辿り着く。

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