トロンの料理

「果物?」

 皿の上には、なんと果物をただカットしただけのものが積まれていたのだ。

「まぁ、うまそうだけどさ……」

「フルーツの盛り合わせ?」

「料理……かなぁ?」

 三人は積まれた果物を見つめながら首を傾げた。

 トロンはそんな三人を見てポツリと呟く。

「デザート」

「うん、わかるよ。わかるけど、これを料理ってのはどうなんだ?」

「料理じゃないって言われたらそうかも」

「それじゃあトロンが後片付けなっちゃうじゃない」

「いいよ」

 トロンは事も無げに言った。

「みんなでデザート食べてて、私後片付けしとくから」

 厨房に入って行こうとするトロンを、三人は慌てて止めた。

「待て待て待て」

「ちょっとどういうつもりよ?」

「トロンさんどうしたの?」

 三人に引き止められ、トロンは振り向く。そしてこう言った。

「だって、せっかくみんなで食事するのに勝負なんてしてたら美味しく味わえない」

 そしてキリッとした顔になり付け加える。


「食事は舌だけじゃない。心でも味わうものだから」


 ゴーン


 三人、いや、主にムチャとプレグの胸を、釣鐘のようにトロンの言葉が打ち付けた。トロンは最初からデザートを用意し、一人で後片付けをするつもりだったのだ。

「じゃあ、果物食べ終わったらお皿持って来てね」

 再びトロンが厨房へ入ろうとするのを、ムチャとプレグは腕に縋り付いて止めた。

「わかった! わかったよ! みんなで食べて、みんなで後片付けしよう!」

「そうよ! 美味しく食べましょう!」

 そんな二人を見て、トロンは僅かに微笑み、ニパと目を合わせた。ニパもにっこり笑った。


 四人は席に戻ると、残った料理を仲良く食べ、最後にトロンの盛り付けたフルーツ盛りを食べる事になった。

「じゃあ、デザートいただきます」

 四人はそれぞれ果物を手に取り、同時にかぶり付く。


 モグモグモグモグモグモグ


「「?」」

 四人が果物を咀嚼すると、トロン以外の三人の頭上にハテナマークが浮かんだ。

 三人はそれぞれ先程と同じ果物を手に取り、もう一度かぶり付く。

「「???」」

 頭上のハテナマークが増えた。

「このリンゴ、ナシの味がする」

「このブドウはチェリーの味がするわ」

「私の食べた桃は柿の味がするよ」

 三人の食べた果物は、全て味がちぐはぐだったのだ。

 トロンはそれを見てふふんと笑った。

「どう?」

「どうって言われても……」

「何したのこれ?」

「みんなが料理してるうちに、こっそり幻覚魔法をかけたの。びっくりした?」

「そりゃあ……びっくりしたよ」

 三人は先程と違う果物を食べた。

 やはり見た目とは違う味がする。

「さぷらーいず」

 トロンはチェリーを食べながら一人でニコニコしている。

 三人はチグハグフルーツを食べながら同じ事を思った。


(やっぱりズレてる……)


 その後、フルーツを食べ終えた四人は仲良く後片付けをしたのであった。

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