ペチャとポロンの冒険4

 それからペチャは、一言も口を聞いてくれなくなったポロンの背後から少し離れて、ただついて歩いた。ポロンは大きな歩幅でさっさか歩いて行くので、ついて行くペチャはほぼ駆け足に近い。本当はお腹も空いていて、少し休みたかったけれども、とてもそれを言い出せる空気ではなかった。


 ペチャはポロンが怒っているのも怖かったが、それ以上にポロンのピンチに何もできなかった事が怖かった。


 ポロンは普段から怒りっぽいが、優しいところもあり、いつも気の弱いペチャを助けてくれる。部屋に虫が出たらやっつけてくれるし、いじめっ子のゴニル達からも庇ってくれる。そんなポロンが、もしあのまま大怪我をしていたらと思うと、ペチャは怖くて悲しくて、情けなくてしょうがなかった。ポロンの背中を見ながら、涙をこぼしてしまいそうであった。


 一方、前を歩くポロンの気分も沈んでいた。

 自分の弟であるペチャの意気地のなさものせいもあったが、自分はペチャに「魔物なんて怖くない」とか「守ってあげるから」とか言っていたのに、先程のような醜態を見せてしまい、挙げ句の果てにはペチャを罵倒してしまった。その事がポロンの胸にどんよりと雲を落としていたのだ。


 二人はしょんぼりしながら、ただ森の奥を目指して歩き続けた。


 しかし、あれから休憩を取らずに歩き続けたおかげか、昼過ぎには薬草があると言われている森の最奥部にある湖に到着する事ができた。


 森の中はずっと暗かったが、湖には当然木が生えていないため、辺りには日光が降り注いでいて明るかった。久しぶりに見るお日様に、二人はホッと胸をなでおろし、天に向かって伸びをする。


 目の前にある湖はそこそこ大きく、半径百メートルはあるように見える。


 すると、二人は湖の中心に小さな浮島があるのを見つけた。そして浮島の中央には、遠目からでもわかるほどに青々と輝く薬草が生えていたのだ。


 ポロンは振り返り、チラリとペチャを見る。普段のポロンであれば、「空飛んで取ってきて」と言うのであろうが、今日のポロンは違った。ただ黙って服を脱ぎ、下着姿になると、湖へとザブザブ足を踏み入れたのだ。どうやら泳いで浮島へ薬草を取りに行くつもりらしい。


「お姉ちゃん危ないよ! 僕が取ってくるから!」


 ペチャはそう言ったが、ポロンはペチャを無視して浅瀬を進み、ある程度の深さになると水面を泳ぎ始める。水中や水辺に魔物が住み着く事はよくある事だが、湖はとても美しく、魔物が住み着いているようにはとても見えなかったのだ。


 それに、ポロンにはここでかっこよく薬草を取ってきて、先程の醜態を挽回したいという気持ちもあった。


 泳ぎの得意なポロンは少々疲れているにも関わらず、スイスイと泳いで湖の中程まで来た。そこでふと何かに気がつく。自らの下方に何か大きな影が動いている事に。


 ポロンは泳ぐのをやめて水中に目を凝らした。するとそこには、数メートル下方から、ポロンの頭程の大きさのある巨大な目がジッとこちらを見ていたのだ。

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