ペチャとポロンの冒険3
二人が歩みを進めるにつれ、森は更に深く、薄暗くなってゆく。そして二人の仲も次第に険悪になってゆく。
「お姉ちゃん」
「何よ」
「疲れた」
「だから何よ」
「休みたい」
「勝手に休めば」
「置いてかれちゃうもん」
「置いてくわよ。早く薬草取りに行かなきゃいけないもの」
「やだ! 休ませてよ!」
「さっき休んだでしょ!? このドンガメ!」
「そんな言い方しなくていいじゃん! お姉ちゃんのヒステリーゴブリン!」
「誰がゴブリンよ! ノロマゴーレム!」
しかし喧嘩しながらも歩み続ける二人が、森の最奥部にある薬草の自生地へと着実に近付いているのは確かであった。
「お姉ちゃんのバカ……」
「バカはどっちよ。だいたいあんたが一人で箒に乗って森の奥まで飛んで行けばこうして何時間も歩かなくて済んだのに!」
「だって一人じゃ怖いもん!」
「じゃあ私が一人で走って取りに行けばもっと早く行けたのよ!」
「お姉ちゃん一人じゃ心配だもん!」
「あんたに心配されるほど落ちぶれちゃいないわよ!」
堪忍袋がピッチピチに膨れ上がった二人が、足を止めて睨み合ったその時だ、突然二人の周囲の藪がザワザワと騒めき出す。二人はハッとして、素早く身を寄せて辺りを見渡した。
「ペチャ、私から離れないで」
ポロンは剣の肢に手をやる。
「な、なんだろう……怖いよ!」
そしてペチャは杖を強く握りしめる。
ポロンが目を凝らすと、藪の隙間から無数の目が二人を覗いていた。目の持ち主達は藪の向こうから、二人に向けてグルルと呻き声をあげる。
「……ダークウルフね」
ダークウルフ。
それはベリス王国全土に生息する凶暴な狼である。一体一体はさほどの強さはないものの、群れで襲われれば並みの人間では太刀打ちする事はできない。
「ガウウ!!」
突如、藪の中から一匹のダークウルフが飛び出し、ポロンへと向かって飛びかかる。しかしその時には既にポロンの抜刀は完了していた。
「はあっ!!」
素早く振るわれたポロンの剣が、飛びかかってきたダークウルフの胴に傷をつけ、ダークウルフは悲鳴をあげて地に転がる。しかし、その悲鳴を合図に藪の中に潜んでいた他のダークウルフ達も一斉に飛び出し、二人へと襲いかかってきた。
「やあっ! せやぁっ!」
次々と襲いかかってくるダークウルフ達を、ポロンはペチャを背に庇いながら、少女とは思えぬ剣技で次々と斬り伏せてゆく。そして数秒後には、七匹のダークウルフが地に転がり、辺りに聞こえるのはダークウルフ達の呻き声だけになった。
「ふふん。どんなもんよ」
ポロンは剣についたダークウルフの血を払い、鞘に納める。そしてガッツポーズをした。
「もう大丈夫よ。さぁ、先を急ごう」
ポロンがそう言って、震えているペチャの手を取る。すると、ペチャが大声をあげてポロンの背後を指差した。
「お姉ちゃん後ろ!」
「え? きゃあっ!」
ポロンの背後にある藪から、先程襲ってきたダークウルフ達より一際大きなダークウルフが飛び出してきたのだ。恐らく群れのボスであろう。
飛び出してきたダークウルフは、不意を突かれたポロンに襲いかかり、全体重をかけて地面に押し倒す。ポロンは咄嗟に噛み付かれるのは避けたが、小柄なポロンでは押さえ込まれるとそれを跳ね除ける事はできない。
「ペチャ! 魔法で援護して!」
ポロンは下から、今にもポロンの首に噛みつこうとしているダークウルフの頭を押さえながら、ペチャに声を掛ける。
「あ……うわぁ……」
しかし、ペチャは腰を抜かし、ただ杖を握りしめて震えるだけで、ポロンの援護に入ろうとはしない。
「ペチャ! 早く! 何でもいいから魔法!」
ポロンが再び怒鳴ったが、ペチャはやはり震えているだけだ。このままではポロンは体力が尽きて、ダークウルフに喉笛を噛みちぎられてしまう。
「もう! ペチャのバカ! こうなったら……」
ポロンは一か八かと、腕に力を込めたまま目を閉じる。すると、ポロンの額から僅かに赤いオーラが立ち上り始めた。
「我が身に宿る怒りの感情よ……我に力を与え給え! 憤怒衝!!」
そしてポロンはダークウルフの頭から手を放し、迫ってくるダークウルフの鼻面に思いっきり頭突きをぶちかましたのだ。
「ギャイン!!」
頭突きの瞬間ポロンの額から赤い衝撃波が発生し、ダークウルフは数メートル後方へと吹っ飛ぶ、そしてキャインキャインと鳴きながら、傷付いた仲間達と共にどこかへと去って行った。
ポロンは荒い息を整え、立ち上がると服についた土を払う。そしてキッとペチャを睨みつける。
「お、お姉ちゃん……」
「あんたがここまで臆病者だとは思わなかったわ」
「だ、だって……怖くて……」
「よくそれで私が心配だなんて言えたもんね。もういいわ。あんたにはもうなんにも期待しないから。一生そうやって震えてなさい」
ポロンの言葉に、ペチャは何も言い返す事ができなかった。
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