昔話「人形になった盗賊」

 むかーしむかし、ある所に、世界一の盗賊がいました。


 盗賊はあらゆる物を盗みました。美しい絵画、輝ける宝石、目の眩むような財宝。そして盗んだお宝に囲まれながら、贅沢三昧の暮らしをしておりました。


 ある日、盗賊は思いました。


「死んだらこのお宝をあの世に持っていけない」


 そして盗賊は怖くなりました。


「どうしよう。こんなに沢山お宝を手に入れたのに、いつか手放さなければならないなんて」


 盗賊は考えました。そして思いついたのです。


「そうだ、死ななければお宝を手放さずに済むぞ!」


 そうです。死ななければ、お宝に囲まれながらずーっと楽しく暮らせるのです。


 盗賊は永遠の命を得るために、偉大な魔女の屋敷に忍び込み、不死の秘薬を盗み出そうとしました。しかし、魔女に見つかり捕まってしまったのです。魔女は盗賊に言いました。


「永遠の命を望むのなら与えてやろう」


 盗賊は喜びました。しかし、魔女は続けて言いました。


「ただし、何かを得るためには何かを捨てねばなるまい」


「何が必要だ? 金か? 宝石か?」


「いや、全てだ」


 魔女は盗賊に魔法をかけました。すると、盗賊は盗賊にそっくりな操り人形になってしまったのです。


「お前の望む永遠の命を与えたぞ」


 盗賊は涙の出ない目で泣きました。


「頼む、戻してくれ、永遠の命なんていらない」


 魔女は言いました。


「お前がその姿で、今まで盗んだ全てのお宝以上の価値の物を手に入れたら元に戻るであろう」


「んなもん無理に決まってんだろうが! 今までどんだけ盗んできたと思ってんだボケ! 城の宝物庫一つじゃ足りねぇぞ! しかも手足も動かねぇじゃねぇか!」


「……まぁ、頑張れ」


 魔女は翌日、近くの村のゴミ捨て場に、人形になった盗賊を捨てました。


 村人達は、気味悪がって人形には近づきませんでした。


 人形は何日もゴミ捨て場で転がっていました。


 そこに、一人の少年が現れました。少年は泣きべそをかいていて、ゴミのように汚れていました。


 人形は少年に言いました。


「なぁ、俺とどこかへ行かないか?」


 少年は頷きました。そして人形と繋がった糸を手に取ります。すると、糸は吸い付くように少年の手に馴染みました。そして人形は少年の思うがままに動いたのです。


 こうして、少年と人形は旅に出ました。そして今も、山程のお宝より価値のあるものを探しているのです。


 めでたしめでたし。

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