パーティータイム
ムチャの挨拶でなぜか闘技場の係員の一人が号泣し始めるというトラブルはあったが、参加者が濃い事もあり、パーティーは実に盛り上がった。
主役のムチャとトロンは、参加者達に「ネタみせてくれよ」と何度か頼まれたが、珍しい事に「ライブを楽しみにして欲しいから」と断っていた。二人はライブの日に向けてモチベーションを高めるために、実は大衆の前での「お笑い断ち」をしていたのだ。
しかし幸いにも二人の他にも芸人がいたため、即席ステージの上は賑わった。
プレグとニパのマジックショーや、ポロロとギャロのマリオネット、そして意外にもソドルとゴドラがステージに上がり、ゴドラのギターでソドルが歌を歌ったのだが、これがまたプロ級に上手く、パーティー参加者達は目を丸くした。ムチャもコモラやニパと一緒にムチャトロンのテーマを熱唱したが、こちらは実に優しい目で見守られた。
トロンはステージを見ながら、コランを膝に乗せて食事を楽しんでいる。
コランはトロンが次々と料理を胃袋に収めていく様子が面白いらしく、トロンの前に次々と料理の皿を引っ張ってくる。
「おねぇちゃん、すごいねー。絵本のくいしんぼうドラゴンみたい」
「何でも好き嫌いせずに食べたら大きくなるんだよ」
「ムチャトロンみたいに?」
「そう、ムチャトロンみたいに」
「じゃあ、これも食べて」
コランが指差した皿には、ニンジンのグラッセがドッサリと乗っている。トロンの手がピタリと止まった。
「どうしたの?」
急に動きを止めたトロンを、コランは無垢な目で見つめた。トロンは少し沈黙してから口を開く。
「……これはね、ムチャの大好物だから取っておいてあげるの」
「そーなんだー、おねぇちゃんはやさしーね!」
トロンの胸に罪悪感がのしかかり、トロンは罪滅ぼしにムチャの嫌いなブロッコリーサラダをモリモリと食べ始めた。
やがてゴドラとソドルは腕相撲を始め、プレグはポロロと共にステージについての談義で花を咲かせ、ギャロは椅子にダラリと座り、酒が飲める皆を羨ましそうに眺めていた。主催者のマニラは闘技者達に挨拶をしながらグラスを交わして回っている。
そんな中、招待されたはいいが、ムチャとトロン意外に誰一人知り合いのいないナップ達はちょっとだけ気まずかった。
「皆楽しそうですわね」
「そうですねぇ」
そんな事を話しながら、パーティー会場の隅で大人しく食事をしていたナップとフロナディアに、カリンとイワナ夫妻が声をかけた。ナップはカリンがケンセイの弟子だと聞いて驚き、カリンとイワナはナップがゴディバドフの知り合いだと聞いて驚いていた。
「ロックパンチ様生きてたの!?」
「風の噂では千騎のゴブリン兵からソードスター様達を逃がすために殿を務めて散ったと聞いていたが……まさか生きていたとは」
カリンとイワナはゴディバドフが生きていた事に驚いていたが、「まぁ、ロックパンチ様なら生きてるか」とあっさり納得し、今度ケルナまで会いに行こうと話をしていた。
ケンセイ達と旅をしていた頃、カリンはゴディバドフに何度も尻を揉まれて、その度に本気でかかっていったらしいのだが一度も勝てなかったと語った。口には出さなかったが、カリン本人はゴディバドフの岩のようなゴツゴツした手で尻を揉まれ過ぎたせいで痔になったと内心思っている。
「でも、あなた達ってなんだか若い頃の私達に似てるわ」
四人で話していると、カリンは突然そんな事を言い出した。
「私も昔情熱的でね、この人を追いかけるように旅に出たのよ」
カリンがイワナの腕に抱きつくと、イワナは困ったようにこめかみを掻いた。
「いや、僕はカリンが心配でカリンについて旅に出たような……」
「どっちでもいいじゃない。でも若いって良いわよね。やっぱりあなた達も毎日……おっと」
要らぬ事を口にしそうになり、カリンは慌てて口をつぐむ。
「はい、毎日励んでいますわ」
ブボァ
フロナディアの発言にナップの口から飲み物が吹き出し、対面に座るイワナをびしょ濡れにした。
「フロナディア様! 何を……」
「あら、毎日汗だくでしているじゃありませんか」
「そんな! 私達は……」
「修行を」
ナップが何をイメージしたのかは、皆の想像にお任せする。
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