お祝い
その日の夜、ムチャとトロンが宿泊している宿の食堂では、二人のお笑いライブ開催決定のお祝いパーティーが開催されていた。
厨房からじゃんじゃん酒と料理が運ばれてくる中、ムチャとトロンは中央のテーブルで闘技場関係者や、これまでの対戦相手達に囲まれている。その中にはナップとフロナディアの姿もあった。
「じゃあ、みんな集まったようだし、二人から何か挨拶してちょうだいよ」
パーティー主催者のマニラが言うと、ムチャはトロンの顔を見た。トロンはムチャに「どうぞ」とジェスチャーをする。ムチャは頷いて、飲み物の注がれたグラスを手にして立ち上がった。
ムチャは小さく咳払いをして話し始める。
「えー、この度は「ムチャとトロンの最強単独お笑いライブ」開催決定と相成りまして、これもひとえに皆様の……いや、うーん」
そこまで話したムチャは一度口をつぐみ、首をかしげると、再び最初から話し始めた。
「色々言うべき事はあるんだろうけど、とりあえずみんなありがとうな」
食堂を見渡すと、周りにはプレグやニパ、そしてこの街で出会った人々がムチャを微笑ましく見守っている。
「俺達、これまでお笑いをしながら旅して来たけど、色々大変だった。観客が一人しかいなかったり、チンピラに絡まれたり、食料が無くてヌマネズミ食べたりして」
トロンが隣でうんうんと頷く。
これまでの二人の旅路は、まだ子供といっても差し支えない年齢の二人には色々と過酷な事もあった。
「それでも旅を続けてきたのは、俺達が笑いって最高だって思っているからだ。単純だけど、泣いてる時や怒っている時より、笑っている時の方がいいだろ? だから俺達は世界中の人達を笑わせたい」
隣のトロンがなぜかえへんと胸を張る。
「っていう綺麗事は建て前で、単純に俺達のネタでみんなが笑うと俺達が嬉しいからだ。ネタがウケると、なんていうか……コツコツ計画してきた事が最高に上手くいって「やったぜ!」って感じの気分になるんだよ。あと、拍手も貰えたら気持ちいいし、それでおひねりががっぽりだったら最高だ! 芸で生きてる奴らだけじゃ無くて、闘技場で戦う奴らもわかると思う。試合に勝って拍手貰えたら気持ちいいだろ?」
食堂にいた数名が頷く。
「俺達はお笑いができれば場所はどこでもいいんだけど、やっぱりデカいステージでお笑いをやるのがずっと夢だった。こんなチャンスをくれたマニラには感謝してる。そしてライブの開催が決まって、俺、本当に嬉しいよ! だから……だから」
ムチャは感極まり、それ以上言葉が出てこなかった。
「とにかくみんなありがとう! 乾杯!」
ムチャがグラスを高らかに掲げると、皆もグラスを掲げた。
「「かんぱーい!!!」」
こうして、パーティーが始まった。
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