パーティーの後

 やがて夜が更け、パーティーが終わる。

 あるものはしっちゃかめっちゃかになった食堂で寝こけ、あるものはほろ酔いで家路に着いた。

 部屋に戻ったムチャとトロンは今日の試合の疲れもあり、各々のベッドでグッスリと眠りについていた。

 ちゃんとパジャマに着替えて、布団をかぶって寝ているトロンに対し、ムチャは普段着のままで蛙のように股を広げてうつ伏せに寝ている。

 すると、二人の部屋の窓の外で、バッサバッサと聞き覚えのある羽音が聞こえた。羽音が止み、僅かに魔力の光が灯ると、カチャリと小さな音を立てて窓が開き、ぴっちりとした黒い水着のような服装をした少女が部屋に進入してくる。疲労困憊で眠りについている二人はそれに気付いていない。

 少女は二人のベッドの合間に立つと、二人の頭に手のひらをかざした。


 ぽわわわわわん


 ムチャが目を開けると、そこは海辺の砂浜に置かれたビーチチェアの上であった。いつのまにか服は脱がされ、なぜかハイビスカス柄の短パンを履いている。

 ふと隣を見ると、隣にはサングラスをかけたトロンが、ムチャと同じようにビーチチェアの上で水色のワンピース水着を着て寝そべっている。

 状況の飲み込めないムチャはとりあえず側のテーブルに置いてあったトロピカルジュースを飲んで落ち着くと、トロンに声をかけた。

「おーい、トロン、トローン」

「んー……ここどこ?」

 目を覚ましたトロンは辺りを見渡し、とりあえず側に置いてあったトロピカルジュースを飲んだ。

 すると、ふいに背後から声をかけられる。

「やぁ、お二人さんどうもどうも」

「「はへ?」」

 二人が振り向くと、そこには華やかな水着を着たエリートサキュバス見習いのケセラがいた。心なしか以前見た時より胸周りが増加されている。

「おー、やっぱりケセラか」

 どうやらこの砂浜はムチャとトロンの夢の中のようだ。

 状況を理解して落ち着いた二人はトロピカルジュースのストローをチューチューと吸った。

「で、今日はどうした?」

「どうしたじゃないですよ」

 ケセラは少し呆れたように言った。

「あ! そうそう、そういえば俺達今度お笑いライブする事になったんだよ。ケセラも観に来て……」

「そんな事より!」

 ケセラは指でムチャの唇を摘んだ。

「前に言いましたよね、ヤバい奴がこの辺に現れるから逃げて下さいって」


 皆は覚えているだろうか? 闘技場での激闘や、アレルの街での様々な出来事に目を奪われ、忘れていたのでは無いだろうか? あの日のケセラの忠告を。


「あぁ、あれね、覚えてる覚えてる」

 ムチャは事も無げに言った。

「やっぱり逃げてくれないんですね」

「そりゃあな、ライブあるし」

「命に関わるかもしれないんですよ」

「俺達はそんな事しょっちゅうだよ。それに、俺達なりに色々考えてるから大丈夫」

 ケセラは呆れてため息を吐いた。

「わかりました。やっぱりそうだと思っていましたよ……今日はお二人が忘れていやしないかと、一応再忠告しにきただけです」

「わざわざありがとうな」

「ケセラも飲んで」

 トロンが差し出したトロピカルジュースをケセラはチューチュー飲んだ。

 そして何かに気がついたケセラが言った。

「あれ? ムチャさんまた女性の知り合いが増えましたね」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る