新たなる旅立ち

 ケセラとの騒動があった翌日、ムチャとトロンは村で旅の支度を整えた。すれ違う村の人々は皆、二人にもっと滞在するように勧めたが、二人は少し悩んで断った。そして、商店の品物は全て無料であった。払うと言ったら逆に怒られたくらいだ。

「あら、あんたらももう立つの?」

 荷物を抱えて宿へと戻る途中、同じように荷物を抱えたプレグとニパに遭遇した。

「おう、プレグ達もか?」

「えぇ、あんまりのんびりしてたら芸の腕が鈍るわ」

「同感だ」

「あんたらの漫才は元からナマクラじゃないの」

 そう言ってプレグはふふんと笑った。

「うるせぇなぁ。ところで、お前らはこれからどっちに向かうんだ?」

「西はまだ混乱が続いてるみたいだから、私達は南へ向かうわ。まさか途中まで乗せてけとか言うんじゃないでしょうね?」

 ムチャとトロンは顔を見合わせた。

「どうする?」

「ムチャに任せる」

 二人は頷くと、プレグを見た。

「じゃあ、よろしく」

「当たり前みたいに言うんじゃないわよ!」

 プレグはぷりぷり怒っていたが、ニパは跳ねて喜んだ。

 そして、出発の時がやってきた。

 四人は出発の前に、村の広場でそれぞれの芸を披露した。広場には沢山の笑顔と拍手の花が咲いた。

 そして、ペノやミノさんと握手を交わす。

「何かあったら俺を頼りに来い。お前らに救われた命だ、好きに使え!」

 ミノさんはドンと分厚い胸板を叩く。包帯が痛々しかったが、どうやら傷はもう大丈夫なようだ。

「ミノさん大袈裟だなぁ。ミノさんこそ、早く嫁さん見つけろよ」

 ムチャが言うと、ミノさんは困ったように笑った。

「うぅ……トロンちゃん元気でねぇ」

 ペノは泣きながらトロンをギュッと抱きしめる。

「またハンバーグ食べにくるね」

 トロンは泣いているペノの背中をポンポンと叩いた。

 四人は多くの村人に見送られて馬車に乗り込む。

「いい村だったな」

「うん」

「この一週間あんたらのせいで大変な目にあったわ」

「でも、楽しかったね」

 四人を乗せて、馬車は走り出す。荷台にいる三人は、村人達に向けて大きく手を振った。


「あの二人、強いのになんかほっとけないのよね」

「ぶもも、同感ですな」

 ペノは馬車を見送りながら祈った。


「あの二人に、笑いの神の加護があらん事を」


 四人を乗せて馬車は行く。行き先は南、そこに何があるのかはわからない。彼等が求めるのは、ただ人々の笑顔である。そこに横たわるどんな冒険も、彼等にとってはおまけに過ぎない。


 もう一度言っておく。これは剣士と魔法使いの物語では無い。一組のお笑いコンビの物語である。

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