その頃ナップは
その頃ナップは、ムイーサの要塞にいた。
「せやぁ!」
一人の兵士がナップに向かい剣を振り下ろす。ナップはそれを躱し、前蹴りで兵士を突き飛ばした。そしてよろめいて隙のできた兵士の喉元に、ピタリと剣先を突きつける。
「踏み込みが足りないぞ」
「はい! ナップ殿!」
ナップが剣を仕舞うと、ナップの元に次々と兵士達が集まって来た。
「英雄ナップ殿! 次は私に稽古を!」
「いや、私とお願いします! 英雄ナップ殿!」
「順番は守れよ! 次は俺だ!」
ナップは要塞の兵隊達に剣の稽古をつけていたのだ。
「だから、私は英雄などでは無いと何度言ったら……」
ナップが困っていると、兵隊達の後ろに一人の老人が現れた。
「ほっほっほ、そう謙遜せずともよいではないか」
「グリームス卿」
彼はリボシー・グリームス。この地方一帯を治めるグリームス家の当主でえらーい人だ。彼は先日行われた、魔王軍撃退記念パーティでナップと知り合った人物であった。
「その剣の腕前を見れば貴殿が英雄である事は間違いないでは無いか」
「いや、だから私よりも強い少年が……」
「ほっほっほ、心神流の皆伝剣士よりも強い少年などそうそういるはずがあるまい」
「いるんですよ! しかもそいつは剣士じゃなくて芸人なんです!」
ナップが言うと、周りにいた兵士達が一斉に笑った。
「出た! ナップ様のお得意のジョーク!」
「ナップ様の方がよっぽど芸人じゃないですか!」
「こらこら、ナップ様に失礼な事言うなよ」
ナップは凄〜く渋い顔をした。
「で、私の孫との縁談の話だが……」
「だからそれは勘弁して下さいよ。私には大事な任務があって……」
「それは困ったな、孫はナップ殿に会うのを楽しみにしておるのに」
グリームス卿は実に残念そうな顔をした。
「孫はがっかりするだろうなぁ……ナップ殿に会えないと知ったら私を嫌いになるかもしれん。いや、ショックのあまり寝込んでしまうかもな。しかし仕方あるまい。ナップ殿には大事な任務があるのだから……」
そして肩を落とし、トボトボと去ろうとする。
「グリームス卿……申し訳ありません」
その背に向かいナップは頭を下げた。
「申し訳ありませんが、会うだけですよ」
グリームス卿はナップに見えないようにニヤリと笑った。
それでいいのか!? ナップ!?
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