不穏な訪問者

「あのチョイ役の恋人達の演技は中々良かったな」

「でもあの男の子泣き過ぎじゃなかった?」

「女の子の方可愛かったよねー」

「男の子から青い煙みたいなの出てなかった?」


 ムチャとトロンが代役を務め始めて一週間が過ぎた。二人の演技は概ね好評であった。


「いやー、お二人共今日もお疲れ様でし。明日からは本役の二人も復帰できそうでしよ」

 楽屋ではムチャとトロンが並んでメイクを落としている。

「本当疲れたよ、まぁ楽しかったけどな」

「ムチャを元に戻すのが疲れた」

 メイクを落とした二人はふぅと一息ついた。

「二人共役者に転向したらどうでしか?」

「冗談じゃねぇよ。俺達は死ぬまでお笑いコンビだ!」

 それを聞いたコペンはふと首を傾げた。

「やっぱりお二人はそんな先の将来まで誓い合った仲なのでしか?」

 二人は激しく首を横に振った。

「いやいやいやいや」

「そんなのじゃない」

「だって普通じゃないでしよ。冒険者でも無いのにその若さで男女二人で世界を旅しているなんて」

 コペンの言っている事は正しい。この地方は割と平和な地方ではあるが、町の外は魔物がウロウロしている世界を少年少女の二人旅をしているなど普通では無い。

「最初は駆け落ちでもしたのかと思ったでしよ」

「まぁ、駆け落ちっちゃ駆け落ちみたいなもんかな」

「いやん、ムチャったら」

 そう言ったトロンは無表情だった。

「もしお二人さえ良かったらずっとうちの劇団に……」


 コンコン


 その時、楽屋の扉を何者かが叩いた。

「誰でしか?入っていいでしよ」

「待てコペン」

 ムチャは扉の向こうにある不穏な気配を感じ取った。トロンはコペンをローブのポケットに隠す。

「何者だ?」


 きぃ……


 ムチャが言うと、扉がゆっくりと開いた。

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